第13話ー⑦ それぞれが抱えるもの

 先に建物内に戻っていたキリヤは、医務室でレクリエーションの時にケガをした優香の処置をしていた。


「結構、やられたね……大丈夫?」


 キリヤは優香の傷口を見ながらそう言った。


「は、はい。ご心配をおかけして、すみません……」


 そう言って申し訳なさそうな顔をする優香。


「ねえ、どうしてこうなったの?」


 キリヤがそう問いかけると、優香は目を泳がせる。


 もしかしたら、困らせちゃったかな――


「言いたくないならいいんだ。でも、喧嘩とかじゃないんだよね?」


 キリヤがそう言って優香の顔を覗き込むと、


「……はい。ただ私が烏丸君の攻撃を避けられなかっただけです。だから烏丸君には何の非もありません。私のせいでこうなっただけですから」


 優香は申し訳なさそうな顔でそう言った。


 優等生ってやっぱり、自分に厳しいものなのかな。それにしても、この怪我は……いや。でも揉め事じゃないのなら、僕がとやかく言う事でもないか――


「そっか。喧嘩じゃないなら、いいさ」


 キリヤはそう言って微笑んだ。


「えっと、じゃあ――うん、この辺かな」


 そう言いながらキリヤは、優香の傷の一つに手を当てる。


「傷口も浅いし、これならすぐに塞がりそうだね」


 キリヤそう言うと、優香の身体にあった傷は少しずつ塞がっていった。


「え、傷が……」


 目を丸くしながらそう言う優香。


「あはは。これを使うのは、優香が初めてなんだ。だから、みんなにはまだ内緒だよ」

「は、はあ――でも、なぜ内緒なんですか?」


 優香はそう言って首を傾げた。


「なぜ、か……。うーん」


 キリヤは優香のその問いに少し考える。


 すると、そんなキリヤの様子を見た優香は、慌てた様子をして、


「い、いえ! あの答えたくないのなら、答えなくても大丈夫です!! すみません、余計なことを聞いてしまって……」


 そう言って肩を落とした。


「あ、えっと、僕こそごめん! ただ理由がなくて答えるのに困っただけなんだ。だから、言いたくなかったわけじゃないよ」


 キリヤがそう言って微笑むと、


「そうでしたか。それなら、よかったです」


 優香はそう言って、ほっとした表情をしていた。


 でも、なぜ僕は能力のことを隠すのだろう。別に話しちゃダメなことなんてないんだけどな――


 キリヤはふとそんなことを考えていた。


 まだ不確定なこの能力のことを、僕は口外したくなかっただけなのかもしれない――


 いつかこの力と向き合い、理解しあえた時に、先生やマリア、他のみんなに話せたらいいな、とキリヤは思ったのだった。


 しまった……優香にはこの力のことをさっき話しちゃったな。気を遣わせなきゃいいけれど――

 

 キリヤはそんなことを思いながら、ふと先ほどの優香の態度を思い出し、首を傾げる。


 そういえばさっき、優香はなんであんな慌てて謝っていたんだろう。もしかして、僕はあの時に怖い顔をしていたのだろうか――


 キリヤはそんな疑問を抱きつつ、優香の手当を続けた。


 その後、手当を終えたキリヤたちは教室に戻っていったのだった。




 教室に着いたキリヤは席に着き、先ほど処置をした優香の傷口の回復具合を思い出して、新たな自分の力に手ごたえを感じていた。


「うん。あれくらいの精度なら使えそうかもね」


 そんなことを呟きながら、キリヤは研究所でしていた所長との会話を思い出す――。



 * * *



「それから、もう一つ。君に言っておきたいことがある……」


 そう言って深刻な顔をする所長。


「どうしたんですか、そんな深刻な顔をして――も、もしかしてやっぱり僕の身体に何かあったんですか!?」


 キリヤは目を見張りながらそう言った。


「そうだね。実はな――君にも、複合能力が現れたみたいなんだ」

「複合能力……?」


 初めて聞くワードにキリヤは首をひねった。


「ああ。暁君も無効化の他に『獣人化ビースト』の能力があるだろう? それと同じで君にももう一つの能力が目覚めたってことさ」

「そう、でしたか」


 まあ、暴走して目を覚ますこと自体が異例なんだもの。それくらいのことはあってもおかしくないよね――


 キリヤは視線を下に向けて、そう思っていた。


「キ、キリヤ君、あのな――」


 慌ててそう言う所長を見たキリヤは、


「そんなことくらいで、深刻な顔しないでくださいよ! びっくりしたじゃないですか!」


 笑いながらそう返したのだった。


 そんなキリヤを見て、所長は呆然としていた。


 あれ、僕。何か間違えたかな――?


「落ち込まないのかい……?」

「え? まあ驚きはましたけど、落ち込む理由なんてなくないですか? それに能力が永遠になくならない事実を聞かされたあとなので、それ以上の驚きはないですね」


 キリヤは人差し指を立て、笑いながらそう答えた。


「そ、そうか。そうなら、よかったよ!」


 所長はキリヤのその言葉を聞き、そう言って安堵の表情をする。


「あの、それで――僕の複合能力って?」

「ああ、それなんだが――」



 * * *



「――所長も大げさな言い方をするよね。まあ、僕を気遣ってのことなんだと思うけど」


 あの時、僕はてっきり『君の氷が君自身を蝕んできている!』とか『暴走したことで、命が半分以下になった』とかそういう類の話をされるのかと思っていたんだけどね――


 そう思いながら、「ふふっ」と笑うキリヤ。


 キリヤがあの時、所長から聞いた複合能力は、『植物』と言うものだった。


 その能力は植物から力を借り、様々なことができる可能性を秘めているものと所長は言っていたが、実際のところ何ができるのかは未知数ということ。


「『植物』ねえ。まあ、僕にはぴったりか」


 この力の可能性を信じて、これからいろんなことを試しながら、この能力のことを理解していこう。きっとこの力は多くの人を救えるものになるはずだから――


 そしてキリヤは今日もいつものように学習ノルマを始めたのだった。

 

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