第13話ー⑥ それぞれが抱えるもの

 ――グラウンドにて。


 暁とキリヤは未だに決着がついておらず、互いに全力を尽くして攻防戦を繰り広げていた。


「あの! 2人ともお楽しみのところ申し訳ないですが、終了の時間ですよ~」


 駆け足でやってきた結衣は、激しいバトルを続けている暁とキリヤにそう告げた。


 そして結衣のその言葉に、暁とキリヤは動きを止めた。


「ああ。もう、そんな時間、だったのか」


 暁が息を切らしながら、そう言ってその場に座り込むと、


「あはは。今日は引き分け、だね……」


 そう言いながら、キリヤはその場に倒れこんだ。


 暴走後からあまり能力を使わないようにしていたキリヤは、久しぶりに能力をフル使用したこともあり、疲労困憊の様子だった。


 キリヤとこうしてレクリエーションの中で楽しくバトルするのは、初めてだったな――


 キリヤを見て、暁はそんなことを思っていた。


 そして、キリヤには負けられない――! と年甲斐もなく全身全霊で挑んだ暁は、立ち上がれないくらいに身体が疲弊していたのだった。


 俺にも、こういう時間が時には必要だよな――


 そう思いながら暁は微笑み、


「楽しかったな、キリヤ」


 そう言ってキリヤの方を見た。


 するとそんな暁を見たキリヤも嬉しそうに笑って、


「うん。そうだね!」


 と答えたのだった。


 それから暁は、近くで佇む結衣の方に視線を向けて、


「結衣。悪いけど、みんなを集めてくれないか。俺はしばらく動けそうにない……」


 面目ないと言った顔をしてそう言った。


 そして結衣はあきれ顔で頷き、『具現化』した動物に他の生徒たちを集めるように指示を出したのだった。




 それから数分後。結衣の『具現化』した動物とともに生徒たちが集まった。


 立ち上がれるくらいに回復した暁は、生徒たちの前に立ち、今回の結果を報告する。


「じゃあ今回の勝敗だけど……3ポイント獲得の青チームと赤チームが同点で優勝だ! ちなみに最下位は黄チーム!!」


 暁がそう言うと、マリアは狂司に嬉しそうな顔で喜びを伝え、結衣とまゆおは落胆の表情をしていた。


「それで、罰ゲームって何をするの?」


 真一は淡々と暁にそう尋ねた。


「ああ、それはな――」


 そう言って暁が真面目な表情をすると、まゆおと結衣はゴクリと生唾を飲む。


「1か月間、食堂の片づけ係に任命する! ちゃんと、3人で協力しながらやること!! いいな?」


 暁が笑顔でそう言うと、


「3人、で……」


 まゆおはそう呟き、真一の顔を見た。


 しかし真一はまゆおの視線に顔色一つ変えず、


「わかった」


 そう言って教室に戻っていった。


 そしてまゆおは、そんな真一を不安な顔で見つめていた。


「まゆお、どうしたの?」


 まゆおの顔を見て、何かあったのかなと心配したいろはがそう尋ねた。


 すると、まゆおはゆっくりと首を横に振ってから微笑むと、


「ううん、何でもないよ。僕たちも戻ろうか」


 そう言って教室に向かって歩きだした。


「う、うん?」


 いろはは首を傾げながら、まゆおの後を追う。


 真一とまゆおの反応……明らかに何かありそうな雰囲気だな――


「結衣、ちょっといいか?」


 暁は教室へ戻ろうと歩きだしていた結衣を呼び止める。


「どうしたのです?」

「ああ、ちょっと気になることがあって」


 そして暁は、レクリエーションの時、真一とまゆおに何があったのかと結衣に問うと、


「実は、作戦会議の時にいろいろとありましてな――」


 結衣は困った顔をして、その時のことを暁に語ったのだった。


「――なるほど。2人がそんな言い合いを」

「ええ。今回の罰ゲームを通して、2人が仲良くなれたらいいのですが」


 結衣はそう言ってから教室に戻っていった。


「ううーん、どうしたものか……」


 暁はそう呟きながら考えを巡らせたが、これと言った案は思い浮かばなかった。


 これは本人たち同士の問題だから、俺から2人にしてやれることはきっと何もないんだろう――


 そう思いながらため息を吐く暁。


 まあでも、俺が唯一できることがあるとすれば、2人が最悪の事態にならないように見守ることなんだろうな――


「何も起こらなきゃいいけどな」


 そして暁も教室へ向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る