第13話ー③ それぞれが抱えるもの
「逃がさないよ、先生――!」
キリヤが走り去る青チームを追おうとしたとき、キリヤの前には真一が立ちはだかった。
「先には行かせない。僕がキリヤを捕まえる」
「それが、真一たちの作戦?」
キリヤが真一にそう問うと、真一はいつもの無関心な表情のまま、
「作戦じゃなくて、僕の独断かな」
そう言ってから両手に風を集め始める。
それは、すごく真一らしい返答だ――
キリヤはそう思いながら、「ふっ」と唇を歪めた。
「でもまともに真一からの攻撃を食らうのは、さすがに嫌だな……」
キリヤはそう呟き、逃げ出すタイミングを見計らいながら、真一から距離を取る。
あれ。そういえば、まゆおや結衣はどこに――
「ふふふ。背後いただきましたぞ!」
その声にはっとしたキリヤは、咄嗟に後ろを向いた。
すると、そこにはニヤリと笑う結衣の姿があり、結衣の能力『具現化』によって、小さな動物たちが出現していた。
「まずいっ!!」
それからキリヤは、慌てて氷の刃を生成しようとするが、結衣の『具現化』した
このままじゃ、僕はここで捕まる――!
すると、そんなキリヤの前にいろはが現れ、
「まったくキリヤ君は、手がかかるね!」
そう言って結衣の
「こんなこと、本当は女の子っぽくないから嫌なんだけどねっ!」
そんなことを言いながらも、いろはは次々と結衣の
「わわわ! 私の
結衣は涙目になって慌てながら、自分が生んだキャラたちが消えるさまを見ていた。
「ありがと、いろは! とりあえず作戦変更で、ここから抜け出す方法を考えよう」
「おっけ!」
それからキリヤといろはは背中をあわせる。
「いろはは結衣をお願い。真一は僕が」
「任せて!」
そしてキリヤは真一の方を向き、そのまま向かっていった。
「ふうん。キリヤ、一人か……」
そう言いながら、真一は表情を一切変えず、再び両手に風を集めた。
あの攻撃が直撃すれば、きっと僕はしばらく立ち上がれなくなる。じゃあそうならないために僕はどうすれば――
そう思いながら真一の前で佇むキリヤ。
それから首を横に振り、
いや。今は考えるより、直感を頼って動くしかない。まゆおの姿が見えないのが少し気になるけれど、僕は一か八かにかける――!
そう思いながら、真一の顔をまっすぐに見据えた。
「じゃあ、これで今度こそ終わり」
真一はそう言って集めた風をキリヤに放つ。
それからキリヤは、向かってくるその攻撃をぎりぎりのところで躱すと、その場に片膝をつき、地面に右手をつけた。
すると、そこから氷の道が作られ、その先にいた真一の足を凍らせたのだった。
それから真一は驚いた顔をして、凍り付いた足元を見つめる。
「ふう。これで身動き取れないね、真一?」
キリヤがニヤリと笑ってそう言うと、
「あーあ。やられちゃった。僕一人なら、キリヤを捕まえられるかもって思ったのにな」
真一はため息交じりにそう言った。
「それで、どうする?」
キリヤがそう尋ねると、
「降参、降参」
真一は両手を上にあげてそう言った。
「わかった! じゃあ、僕はいろはの助人に行くから!」
そう言ってキリヤは真一の元を去った。
「そういえば……優香はどこにいったのかな」
キリヤは開始後から優香の姿を見ていないことに気が付く。
同じチームではあるものの、個々の行動に縛りがあるわけじゃない。だから優香の行動をいちいち気にすることもないけれど――
「まさか優香に限って、サボる……なんてことはないよね。でも能力の使用を嫌がっていたから、どこかに隠れてタイムアップまで待つつもりなのかも」
そしてキリヤは結衣と交戦しているいろはの元へ向かったのだった。
* * *
「ちょっと、ちょっと! いろはちゃん、本気すぎませんか!?」
結衣は
「だって本気にならなきゃ、負けちゃうっしょ? 罰ゲームは嫌!」
そう言いながら、いろははまた結衣の
「そうだとしても、いろはちゃんたちは私たちから逃げる側なんですから、私のかわいい子供たちを殴り倒し続けなくても!」
結衣にそう言われて、冷静になるいろは。それからポンっと手を打つと、
「そういえば、そっか! アタシは逃げればいいんだ!!」
そう言ってから結衣の前を立ち去った。
「ああ、怖かった……」
ほっとしてその場に座り込む結衣。
そして結衣はその後ろから近づく存在に気が付かずにいたのだった。
* * *
真一のところを離れたキリヤは、いろはを探していた。
「いろは、どこに行ったんだ? 結衣の能力ならすぐに見つけられるって思ったのに、戦っている雰囲気はないみたいだね……」
そう呟くキリヤの前に、突然まゆおが現れる。
「待っていたよ、キリヤ君」
「まゆお……」
そしてまゆおは腰に差していた竹刀を構え、
「少し卑怯かもしれないけど、真一君との戦いで消耗した君を僕がここで打ち取らせてもらう。……キリヤ君にはここでおとなしくしていてくれるとありがたい、かな」
キリヤの顔をまっすぐに見てそう言った。
「はは。それはできない相談だね……」
一瞬の沈黙。そして同時に2人は動く。
まゆおはキリヤに向かって竹刀を振り下ろし、キリヤはそれを間一髪で躱した。
大丈夫。まゆおの太刀筋は、何とか僕の目でも追える速さだ――
キリヤがそう思っていると、まゆおの次の振りがキリヤを襲う。
「さっきよりも速さが増している!?」
見えなくなったまゆおの太刀筋に、キリヤは目を見張った。
さすがに今度は避けられないか――
キリヤがそう思った時、まゆおの竹刀はキリヤに届く直前で急に止まった。
何が、起こったの――?
キリヤはそう思いながら、目の前で竹刀を最後まで振り下ろさないまゆおに目を丸くしていた。
「あ、あれ!? なんで」
まゆおは突然動かなくなった身体に動揺しているようだった。
まゆおが自分で振り下ろすことをやめたわけじゃないってことだよね。じゃあ、何が起きたんだ――
そう思いながらまゆおを見つめるキリヤ。そしてその身体にきらりと光る何かが絡んでいることを知る。
あれは、銀色の糸――
それからキリヤははっとすると、
「そういうことか。ナイスアシスト」
そう呟いてから微笑んだ。
「悪いけどまゆお。僕はこれで」
キリヤはまゆおにそう言ってから、その場を去ったのだった。
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