第13話ー④ それぞれが抱えるもの

 キリヤの攻撃を逃れた暁たちは木の陰に身を潜めていた。


 さて、ここからはキリヤたちに見つからないよう、黄チームを捕まえて――


 暁がそう思いながら周囲を観察していると、


「ん、あれは……」


 結衣といろはが応戦しているところを偶然目撃したのだった。


「これはチャンスかもしれませんね」


 狂司も結衣たちの存在に気が付いたのか、目の前にいる結衣たちを見たままそう言った。


「そうだな。このまま様子を見て――」

「チャンスがあればものにする、ですね」

「おう!」


 そして暁たちは、そのまま結衣といろはの動向を窺った。


 それからしばらくすると、いろはが結衣の前から立ち去っていった。


 それのチャンスを逃すまいと、暁たちはほっとしていた結衣の背後へこっそりと近寄り、静かに確保したのだった。


「ずるいですぞ! 気が緩んでいるときに捕まえるなんて!!」


 結衣はそう言って、頬を膨らませた。


 確かにちょっとずるいやり方かなとは思ったけど、これも作戦のうちだから仕方がないんだよ、結衣――


 そう思いながら、「うんうん」と頷く暁。


「じゃあ結衣、割り箸を」

「ううう……」


 そして結衣は、チーム分けで使用した割り箸を暁に渡した。


「じゃあ、教室で待っていてくれ」


 今回の鬼ごっこの追加ルールとして、捕まった時に持っていた割り箸を相手チームに渡し、教室で待機することになっていた。


 割り箸を渡した結衣は、怒りながら唇を尖らせて教室へと向かって行った。


 それから暁たちは、状況の把握をするために見通しの良いグラウンドへ向かったのだった。




 暁たちがグラウンドにつくと、そこには足が凍り付いて動けない真一の姿があった。


「これってキリヤの罠とかじゃ、ないよな?」


 そう呟きながら暁は真一のもとに向かう。


 そして暁の存在に気が付いた真一は、


「あーあ。ゲームオーバーか。はい、割り箸」


 そう言って暁に割り箸を差し出す。


「ああ、サンキューな」

「ねえ先生。これ、なんとかしてくれない? 動けないんだけど?」


 そう言って、足にまとわりつく氷を指さす真一。


「わかった」


 暁はそう言って真一に足にまとわりついた氷に触れると、その氷は砕けてなくなった。


「ふう。じゃ、教室で待ってるから」


 そう言って真一は教室へ向かっていった。


「さて、あとはまゆおだけか……」


 暁はそう呟いてあたりを見渡すが、まゆおの姿を見つけることができなかった。


 どこかに隠れているのか、それともキリヤたちと応戦中か――


 暁がそう思っていると、


「先生、前!!」


 狂司の大きな声でそう言った。それから暁は正面を見ると、その方からキリヤがゆっくりと向かってくる姿を目にする。


「キリヤ……」

「先生。今日こそ負けないよ?」


 そう言って微笑むキリヤ。


「ああ。俺も負けるつもりはない! 狂司、マリア、作戦通りに行くぞ!」


 暁の掛け声に頷く狂司とマリア。


「へえ。それってどんな作戦なのかな?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるキリヤ。


「さあて」


 暁もそう言って不敵に笑うと、狂司とマリアは暁を残して、その場から走り去ったのだった。


 キリヤはそんな2人を追うことなく見つめると、


「なるほど……僕と一騎打ちって感じかな?」


 楽しげにそう言った。


「ああ。そのほうが、面白いだろ?」

「うん、そうだねっ!」


 キリヤはそう言って氷の刃を生成すると、それを暁に放った。


 そして暁はその攻撃を次々と躱していく。


「力は使わないの?」


 キリヤがそう尋ねると、


「簡単に使ったら、面白くないだろ?」


 暁はそう答えてニッと笑う。


「ああ、そりゃそうだ!」


 それからキリヤは地面に手をつき、暁の立っている足もとを凍らせた。


「う……」


 暁はその氷に足を取られて、身体のバランスを崩す。


「もらったよ!」


 そう言って暁の手を掴もうとするキリヤ。


 暁はそんなキリヤを間一髪で躱し、『無効化』で足元の氷を消滅させた。


 そして体勢を立てなおした暁は、キリヤから距離を取る。


「ははは、やっぱり先生は一筋縄じゃいかないね」

「そりゃ、俺にだってプライドがあるからな!」

「それでこそ、先生だよっ!」


 キリヤはそう言って、再び暁に向かっていったのだった。



 * * *



 その頃のまゆおは、キリヤと交戦していた場所からまだ動けずにいた。


「なんで、身体が動かないんだろう……」


 そう呟きながら、まゆおは腕を動かそうと試みるが、その腕は何かに拘束されているようでまったく動かすことができなかった。


 体勢は変えられないけれど、少しも動かないってわけじゃない。だから金縛りにあっているってことじゃないとは思うけど――


 まゆおがそう思っていると、身体の周囲がキラキラと輝いていることに気が付く。


 そしてまゆおはそのキラキラと輝くものが何なのかと周囲を見渡し、それがどこかから伸びている銀色の細い糸だという事を知る。


 この糸が、僕を拘束しているってことだね――


「でも、糸か……」


 これって誰の能力なんだろう。キリヤ君を間一髪で助けたところを見ると、おそらく同じチーム誰かってことだと思うけど――


 初めて見る能力だったことから、転入生であり、なおかつキリヤと同じチームである優香にあたりをつけたまゆお。


「何の糸なんだろう。それにしても、この糸――」


 まゆおはそう言いながら全身の力を込めて動くが、絡んだ糸が切れることはなかった。


「硬いなあ……はあ」


 このまま時間切れになるまで、僕はここでただこうしていることしかできないのかな――


 そう思いながら暗い表情をするまゆお。


 真一君と結衣ちゃんはどうしたんだろう。結衣ちゃんはたぶん一人じゃ、すぐに捕まってしまうだろうな――


 それからまゆおは、真一の姿を思い浮かべる。


 真一君はどうだろう。一人でもなんとかなっているのかな――いや。あの調子だと、もしかしたらもう――


 そう思いながら、まゆおは作戦会議の時のことを思い出す。



 * * *



 ――数分前、黄チーム作戦会議時。


 まゆおと真一、結衣はグラウンドの中心あたりに集まって作戦会議をしていた。


「どういう作戦にしよう。どこのチームも強敵だよね」


 まゆおが不安な顔をしてそう言うと、


「作戦なんていらない。僕は好きにやらせてもらう」


 真一は淡々とそう言った。


 そんな真一の言葉にムッとするまゆお。


「他のチームはきっと作戦を立てて来る。無策で向かっても、きっと返り討ちにされるだけだよ!」


 まゆおはいつもより強い口調で真一へそう告げるが、そんな真一は顔色一つ変えず、


「関係ない。僕は僕が思うように行動するだけ」


 興味もなさそうにそう言った。


 そんなまゆおたちの間に結衣は割って入り、


「まあまあ。二人とも! 言い争っても何も生まれませんぞ!」


 2人の顔を交互に見ながらそう言った。


「何を言われても、僕は僕の考えを曲げるつもりはないよ」


 真一はそう言ってから、一人でどこかへ行ってしまったのだった。


「あはは、どうしましょう?」


 結衣が困った顔でそう言うと、


「ごめんね。僕が不甲斐ないばかりで……」


 肩を落としてまゆおはそう言った。


「そんなことないです! まあ、きっと何とかなりまするよ! ファイト、オーです!!」

「ありがとう、結衣ちゃん」


 こうしてまゆおたちは、無策のままで鬼ごっこを開始したのだった。



 * * *



 まあ結果が、今この状況なんだよね――


 まゆおは大きなため息を吐くと、


「――きっと真一君は、僕のことなんか助けてくれないだろうな」


 そんなことを呟きながら、悲し気な表情をした。


 そもそも僕にはキリヤ君のような人望がないんだ。だから真一君が僕の話を聞かないのも納得だよ――


 そう思いながらまゆおは俯き、誰かが通りかかるのを待つことにしたのだった。


 それから数分後。


「あ! まゆお!!」


 マリアがそう言ってまゆおに駆け寄った。


「狂司」


 マリアがそう言うと、マリアの後ろにいた狂司がまゆおの前に姿を現し、まゆおに触れる。


「これでまゆお君は確保ですね」


 狂司は笑顔でそう言った。


「でも、まゆおはなんでこんなところに一人で?」


 腕を振り上げたまま止まっていたまゆおを見て、マリアは不思議そうな顔をしてそう尋ねた。


「えっと、実は急に動けなくな――あれ?」


 急に腕を下ろすことができるようになったことに、首を傾げるまゆお。


「身体が、動く?」


 さっきまで動けなかったのが嘘みたいだ――


 それからまゆおは竹刀を振ったり、手のひらを動かしてみたりと自分の身体が本当に動かせるようになったのかを確認する。


「大丈夫?」


 マリアはそう言ってまゆおの顔を覗き込む。

 

「う、うん。理由はわからないけど、急に動けなくなってね。桑島さんも気をつけて」


 そしてまゆおは持っていた割り箸をマリアに渡し、教室へ向かったのだった。

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