第13話ー② それぞれが抱えるもの

 着替えた生徒たちは、グラウンドに集合していた。


「さて、今日はな……3チームに分かれてのチーム戦だ!!」


 暁がそう言うと、


「3チーム? 鬼ごっこなのにですか?」


 狂司は首を傾げてそう言った。


「ああ! 赤、青、黄のチームに分かれて、それぞれを捕まえるんだ。赤は青を。青は黄を。そして黄は赤を追う。捕まえられるチームはそれぞれ一つ! 最後まで残ったチームの勝ち! 能力の使用は自由。でも危険行為は禁止だ!」


 暁の説明に、狂司と優香以外の生徒たちは納得したように頷く。


「能力の使用は、自由――ですか」


 そう言って狂司は難しい顔をし、


「そんな……授業で能力を使用しても良いのですか!?」


 優香は目を丸くして、暁に詰め寄りながらそう言った。


「ああ。こういう外でやるレクリエーションの時は、だいたい能力有りでやっているんだ!」

「え……でも、それって……」


 そう言って不安そうな表情をする優香。


 優香も、自分の能力にはあまり良い印象がないんだろうな――


 そう思った暁は小さく頷き、


「でも無理に使うことはないさ! ただ、使ってもいいぞって言うだけの話だよ」


 そう言って微笑んだ。


「わかり、ました」


 そう言って優香は引き下がった。


 狂司の反応はどうだろう――そう思いながら、暁が狂司の方を見遣る。


 狂司は難しい顔をして何かを考えた後に、ゆっくりとまゆおの方を見た。それからまゆおと目が合うと、


「なるほど。先ほど、まゆお君が言っていたのはこういうことでしたか」


 淡々とそう言った。


 まゆおはそんな狂司に笑顔を向け、「うん」と答えた。


「そういうことなら、わかりました」


 狂司はそう言って頷く。


 狂司は納得してくれたみたいだな。でも、優香はまだ不安そうだ――


 暁はそう思いながら、優香の方へ視線を向ける。


白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』と言う力を、良くないものだと思っている人がいることを暁も理解はしていた――それは、暁自身もそうだったからだ。


 だから、優香が能力の使用を不安に思うのは仕方がないことだと思うよ――


「優香、無理はしなくてもいい。自分の能力が好きじゃない人がいることを俺は知っているから。ただ、なぜレクリエーションで能力の使用を許可しているのかだけは、聞いてくれ」


 暁が優香の顔を見てまっすぐに言うと、


「はい……」


 優香はしゅんとした顔でそう言って、暁の方を向いた。


「今の俺はみんなにこの活動を通して、自分の能力と向き合ってほしいと思っている。自分の力は悪いものじゃないって、そう思ってくれたらいいなって」


 暁が真剣な顔でそう言うと、優香は納得したように小さく頷いた。


 俺の想いを押し付けてしまうカタチになってしまったけれど、優香が納得してくれてよかった――


 そう思いながら、ほっと胸を撫で下ろす暁。


「えっと――じゃあ、チーム分けはどうするの?」


 キリヤは様子を見計らうように暁の方を見てから、そう尋ねた。


 もしかしてキリヤは、場の空気を換えようとしてくれたのかな――


 そう思いながら微笑む暁。


 それから暁は、


「ああ、今回はな――」


 ニヤニヤと笑いながらそう言って、(ポケットに)隠し持っていた割り箸を取り出し、生徒たちの前に差し出した。


「じゃじゃーん! これをみんなに引いてもらって、チームを決める!」


 暁が得意満面にそう言うと、


「すごく原始的なやり方だね……。それに、効果音を自分でって」


 キリヤはそう言ってあきれ顔をする。


「それってもしかして、王様ゲーム!?」


 あきれた様子のキリヤとは反対に、割り箸を見たマリアはそう言って目を輝かせた。


 兄妹でここまでリアクションが違うなんて……まあでも、マリアが嬉しそうだから、キリヤの反応は気にしないでおこう――!


「さあ、みんな引いてくれ!」


 暁がそう言うと、生徒たちはそれぞれ割り箸を引いていく。


 そして、今回のチーム分けはの結果は――


 赤チーム・キリヤ、いろは、優香

 青チーム・暁、マリア、狂司

 黄チーム・まゆお、結衣、真一


 なかなか面白そうな結果になったなあ――と思いながら、暁はニヤニヤと笑った。


「じゃあ始める前に作戦会議をしよう! 開始は15分後だ!」


 暁がそう言うと、生徒たちはそれぞれのチームに分かれて、作戦会議を始めたのだった。




 青チームの暁とマリアと狂司は、建物の陰に隠れて作戦会議を始めていた。


 しかし暁はこの作戦会議をする前に、狂司へ大切なことを確認しなければならなかった。


 そしてそれは、狂司の能力についてのことだった。


「そういえば、狂司ってどんな能力なんだ?」


 暁がそう尋ねると、狂司は目を丸くして、


「個人データの資料、見ていないんですか?」


 そう答えた。


 まあ、そんな顔もしたくなるよな。あのデータを作るために、きっと膨大な質問をされただろうし――


 そう思いながら、「うんうん」と頷く暁。


「ごめんな。でも、俺は誰かのつくったデータを当てにしたくなくてな。だから、極力は生年月日と氏名のところしか見ないようにしているんだよ」

「へえ……そう、ですか――」


 狂司はそう言ってから何かに納得するように頷くと、


「わかりました。では、僕の能力をお教えしましょう」


 笑顔でそう言った。


「ああ、よろしく頼む!」


 それから狂司は笑顔で頷き、ゆっくりと口を開く。


「――僕の能力は『鴉の羽クロウ・フェザー』と言って、カラスの羽を自在に使いこなせる力です」

「『鴉の羽クロウ・フェザー』――なんかかっこいい能力名だな!」


 暁がそう言うと、狂司は頬を赤らめた。


「ぼ、僕が決めたわけじゃないですからね! 検査をした人が勝手にそう言って――!」

「でも、すごい能力なのはわかる。『鴉の羽クロウ・フェザー』、良い!」


 マリアは嬉しそうにそう言った。


 マリアは、『鴉の羽クロウ・フェザー』って名前が気に入ったんだな――


「ちょっと、マリアさん!? 恥ずかしいので、もうやめてください!!」


 狂司は慌てながら、マリアに懇願していた。


「ええ……でも、本当にかっこいいと思うよ?」

「それでも、です!!」


 狂司が初めてこの施設へ来た時に、小学生の割には大人びているなあと思ったけれど、こういう一面もあるんだな――


 そう思いながら、暁はクスクスと笑った。


 それから暁たちは狂司の能力を取り入れた戦略を考案していった。その際に暁は自分の能力を狂司へ伝えると、狂司はまたいくつかの戦略案を出していた。


 その案を聞くたびに、やっぱり狂司はただ者ではない小学生なんだな――と感心する暁。


 そして狂司が提案した中から、一番よさそうな戦略で暁たちは挑むことにしたのだった。




 ――15分後。各チームは作戦会議を終え、再び全員がグラウンドに集合した。


「よし、じゃあ時間だ! さっそく、鬼ごっこを始める! 制限時間は20分だ! 最後まで残った人が多いチームの勝ち! 負けたら、過酷な罰ゲームが待っているからな!」

「え!? 罰ゲーム!?」


 それを聞いたいろはが目を見張る。


「罰ゲームが嫌なら、勝てばいいさ」


 そんないろはに余裕そうな顔でキリヤがそう言った。


 キリヤは負ける気がないみたいだな。それは楽しみだ――


 そう思いながら、ニヤリと笑う暁。


「じゃあ、行くぞ! 始めっ!」


 暁のその掛け声と同時に、キリヤは暁に向かって氷の刃を飛ばす。


「いきなりかよ!」


 暁はそう言って笑いながら右の手のひらを前に突き出し、キリヤの氷を粉砕した。


「逃げるぞ、マリア! 狂司!!」


 そして暁はマリアと狂司と共に、その場から走り出す。


 ここまでは狂司の予想通りだな。キリヤは開始と同時に一番厄介な俺に仕掛けてくることはわかっていたよ――


「よし、2人共、作戦通りにいこう!」

「うん」「はい!!」


 そして暁たちは、キリヤたちから遠ざかるように全力で走ったのだった。

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