第12話ー④ 新しい出会い

 食堂の片づけを終えた暁は職員室に戻り、報告書をまとめていた。


「えっと……今日は転入生が来て……施設内の説明と、歓迎会を……こんな感じでいいかな」


 暁は作成した報告書を政府関係者へ送信した後に、その場で背伸びをする。


「よし――今日の仕事は終了だな」


 そう言って暁が自室に戻ろうと立ち上がった時、職員室にはキリヤがやってきた。


「先生、お疲れさま」


 そう言って微笑むキリヤ。


「ああ、キリヤか。どうした?」


 何か相談事だろうか――


 そう思いながら、暁は首を傾げた。


「別に何かあったわけじゃないけど、ただ先生に会いたいなって思って」


 その言葉に嬉しく思った暁は、


「なんだよ~、かわいいこと言ってくれるな、キリヤは!」


 喜色満面でそう言った。


「ふふっ。だって僕は、先生が大好きだからね!」

「大好きって――でもまあ。うん、嬉しいよ!」


 この場合の大好きはきっと『人間的な』って意味だよな――!

 暁は「うん、うん」と頷きながら、そう言って笑う。


 他の生徒たちの前では、しっかりとしたお兄さんでいようとするキリヤだが、暁の前だけでは少し違い、本来の子供っぽい部分を出していた。


 こんな甘えたキリヤは、俺だけの特権みたいでなんだか嬉しいんだよな――


 そう思いながら、暁は微笑む。


 そして暁はふと、実家の兄妹たちももしかしたらこうやって甘えてくれたのかな――とそんなことを思ったのだった。


「ああ! そういえば、先生。奏多とはちゃんと連絡を取ってるの?」


 キリヤは暁の隣に座り、唐突にそんなことを尋ねた。


「あー、いや――実は見送ったあの日から、会話はおろかメールすらしてないな」


 そう言って頭を掻く暁。


「は!? 何やってんの!! 奏多が他の男に取られちゃってもいいの!?」


 キリヤはいきなり大声を出して立ち上がる。


「ちょ、なんだよ、いきなり!!」


 それからキリヤは身を乗り出して、声を荒げながら暁に語り出す。


「いやいやいや……あの、奏多だよ!? あんなに可憐で美しいんだよ!? 他の男が放っておかないでしょ? それにあんまり連絡しないと、先生のこと忘れちゃうかもしれないし……女の子って頻繁に連絡を取らないと、パートナーに飽きるって聞いたこともあるから!!」


 暁ははっとして、


「それは……まずいな」


 そう呟いた。


 そしてキリヤの言ったことを聞き、暁は自分が良くない傾向にあることを悟る。


 確かに奏多はすごく美人だし、可憐で素敵な女の子だ。お互いの気持ちを伝えあったとはいえ、確かに不安はある――


「じゃあほら、連絡して! 今!!」


 そう言ってキリヤはスマホを指さす。


「い、今!? えっと――じゃ、じゃあメールしてみる」

「よしよし」


 それから暁は奏多へメールを打とうとスマホのメール画面を開く。


 しかし、暁は画面を見ながら、そのメールで何と打っていいのかわからなかった。


 そもそも俺は女の子とそういう関係になったこともなければ、メールなんてしたこともないぞ――


 暁は今更、そんな事実に気が付いたのだった。


「なあ、キリヤ。なんて打てばいい?」


 困った暁は、キリヤにそう尋ねる。すると、


「そんなのは自分で考えて!!」


 キリヤは眉間に皺を寄せてそう言った。


「はい……わかりました」


 そして暁は渋々自分でメールの文章を思考するも、なかなか文章が思い浮かばず――


「なあ、キリヤ~!」


 暁が泣きながら教えを乞うと、キリヤはやれやれと言った顔をしてから暁にアドバイスをする。


 それからキリヤにもらったアドバイスを参考にしつつ、暁は奏多へのメールを完成させたのだった。


『奏多、元気にしてるか? 俺は元気だよ。今日、新しい生徒が来て、これからが何か起こりそうで楽しみなんだ。奏多も慣れない土地で大変だと思うけど、無理せずに勉強に励んでくれ』


 拙い言葉だと思ったけど、奏多はどう反応するだろう――


 そんなことを思いながらメールを送信した暁は、奏多からの返信を楽しみに待つことにした。




 ――メールを送ってから30分後。奏多からの返信はなかった。


「本当にあれでよかったのか……」


 なかなかこない返事に、暁はうずうずしながらそう言った。


「大丈夫じゃない? 先生っぽくて、素敵な文章だったと思うよ?」


 キリヤはにやにやしながら、暁にそう言った。


「それって褒めてんのか……?」


 なんだか馬鹿にされているような気もするが、今はそんなことより返信の有無が第一だ――!


 しかし、それから暁がどれだけ待っても奏多からのメールは返ってこなかったのだった。


 そして待ちかねたキリヤは自室に戻り、暁も今日中の返信はないだろうと諦めつつあった。


「ま、奏多もいろいろ忙しいのかもな……」


 それから暁は自室に戻って、布団に潜った。


「もしも俺のことなんて、もうどうでもよくなっていたら――」


 返信のない不安から、暁はつい良くないことを考えてしまっていた。


 こんな時は、さっさと眠るのがいいな――


 暁がそう思って目を閉じた時、スマホから通知音が聞こえた。


 そして暁はゆっくりとスマホを手に取り、その画面を見ると――そこには奏多からのメールが届いたことが通知されていた。


 暁は飛び起きると、急いでそのメールを開く。


『返信遅れてすみません。なんて返せばいいかを考えていたら、時間が経っていました。メール嬉しいです。私も元気でやっていますよ! 先生もご無理なさらず、楽しい生活をお送りください! p.s.先生に会えなくて私はさみしいです』


 良かった……どうでもいいって思われていなくて――


 そう思いながら、ほっと胸を撫で下ろす暁。


「それにしても……奏多も同じ思いだったなんてな。良かった」


 暁はそう呟き、ニヤニヤと笑った。


 今日みたいな不安を感じないように、普段から奏多にメールを入れよう――と暁は誓っていた。


 それから暁は、奏多と何回かメールを交わし、眠りについたのだった。

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