第12話ー③ 新しい出会い
そしてその日の夕食。新入生を含め、初めて全員が食堂に揃った。
「よし! 初対面の生徒たちもいると思うから、改めて自己紹介をしよう!」
暁がそう言うと、生徒たちは「はーい」と言って頷いた。
そして最初にキリヤがその場で立ち上がり、優香と狂司の方を向いた。
「僕は桑島キリヤ。17歳で高校3年生だよ。ここでは最年長だから、何か相談があれば何でも言ってね」
そう言って微笑むキリヤ。
そんな微笑むキリヤを見た暁は、初めてキリヤの自己紹介を聞いたときのことを思い出していた。
暁が初めてきたあの日――キリヤは今では想像できないほどの冷たい笑顔を暁に向けていたのだった。
当時のキリヤは誰も信じようとせず、すごく冷たい笑顔をしていたっけ。でも今は、あんなに優しい笑顔をできるようになったんだな。一年でこんなにも人は変われるものなんだ――
そう思いながら、暁は微笑んだ。
それからマリアが続いて自己紹介を行う。
「私は桑島マリア。キリヤの妹で高校2年生。よろしくね」
マリアは優しい笑顔をしながら、そう言った。
「次はアタシー!! えっと、さっきも紹介したけど――アタシは速水いろは! 気軽にいろはって呼んで!! よろしく~」
そしてまゆお、真一と続き、最後に結衣と順番に挨拶をしていく。
「よし、全員の紹介が終わったな! じゃあ次は、優香と狂司の番だ」
暁がそう言うと、優香は狂司に目配せをしてからニコッと微笑み、立ち上がる。
「皆さん、はじめまして。私は糸原優香と申します。桑島さんと同様に、高校2年生です。至らないところは多いと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。そして皆さんと早く仲良くなれるように精進してまいります」
優香は丁寧にそう言ってから頭を下げた。
優香は見た目通り真面目な生徒なんだろうな。だからこそ、こういう場での自己紹介が硬くなってしまうのだろう――
暁はそう思いながら、優香を見つめる。
「ありがとう! これからよろしくな、優香! それと――そんなに堅苦しい挨拶じゃなくてもいいんだぞ? もっとフランクにいこうな!」
暁が笑顔でそう言うと、
「お気遣い、感謝いたします」
そう言って優香は微笑んだ。
なんだかまた気を遣わせてしまったような――
優香の笑顔を見て、そう思う暁。
優香が俺たちに気を遣わず過ごせるような環境にしていこう――と暁は心の中でそう思ったのだった。
「同い年なのに、優香はなんだかお姉さんって感じがする。これから仲良くなれると嬉しい。よろしくね、優香」
マリアがそう言って優香に笑いかけると、優香はマリアのその笑顔に赤面した。
「は、はい。こちらこそ」
あはは。やっぱりそんな顔になるよな。マリアは(施設にいる生徒たちのほとんどが認める)美少女だから。気持ちはわかるよ――
暁はそう思いつつ、「うん、うん」と小さく頷いた。
「じゃあ、次は僕ですね」
狂司はそう言って立ち上がる。
「僕の名前はは烏丸狂司です。小学6年生です。皆さんよりも未熟なところが多いと思いますけど、いろいろ教えていただけたらと思います。これからよろしくお願いします」
そう言って、深々と頭を下げる狂司。
やっぱりなんだか(良い意味で)子供っぽくないというか。しっかりしているんだよな――
そう思いながら、頭を下げる狂司を見つめる暁。
そしてそんな狂司に、その場にいる生徒たちは感心していた。
「へえ、本当に小学生!? すごいしっかりしてるじゃん!!」
いろはは目を丸くしながら、狂司にそう言った。
「あはは。ありがとうございます、いろはさん」
狂司はそう言って笑う。
「んじゃあ、これからよろしくね狂司! 狂司はしっかり者かもしれないけど、アタシの方がお姉さんだから、アタシに頼ってくれてもいいからね!」
いろははそう言って胸を張る。
そんないろはを見た狂司はクスクスと笑ってから、
「はい。頼りにしていますね。ありがとうございます」
丁寧にそう答えた。
いろはは、さっそく狂司に先輩風を吹かせているな――
そんないろはたちの様子を見ながら、暁はやれやれと思ったのだった。
それから自己紹介の甲斐もあって、食堂では穏やかな空気が流れていた。
しばらく新しい生徒が入ってこなかったこともあって、生徒たちは優香や狂司のことを受け入れがたいかもしれない――と思っていた暁だったが、杞憂だったようでほっとしていた。
「よし、せっかくみんな集まったし、このまま歓迎会だ! 親睦を深めよう!」
暁が生徒たちにそう告げると、生徒たちは「賛成!」と言って楽しそうに準備を始める。
勝手がわからない優香や狂司は、他の生徒たちに積極的に声をかけて準備の手伝いをしていた。
この分だと、優香も狂司もすぐに打ち解けられそうだな――
そう思いながら、暁は準備する生徒たちを見つめていた。
「センセーも突っ立ってないで、手伝ってよ~」
「おう!!」
それから暁は、生徒たちと共に食事を楽しんだのだった。
夕食の後。暁は一人で食堂の片づけをしていた。
いつもは奏多と2人で片付けをしていたんだけどな。今はもう奏多はいないから――
そう思いながら、寂し気な表情をする暁。
「はあ。やっぱりさみしいな……奏多は今、何をしているだろう。楽しそうにバイオリンを弾いているのかな」
暁はそんなことを呟きつつ、一人で片づけを続けた。
いつまでも寂しがっている場合じゃないよな。次会う時までに、俺も成長したってところを見せたいし、それに会えない期間が長ければ長いほど、会った時により幸せを感じられるはずだ――
そう思いながら、片付けの手を止めず、小さく頷く暁。
今は会えないさみしさに暮れるより、会った時にどんな楽しい話をしようかって考えよう。その方がさみしくない上に、会った時の話題も困らないだろうしな――!
そうして暁は笑顔になると、
「うん。そうしよう!」
そう自分に言い聞かせてから、黙々と片づけを続けた。
しかし、一人寂しく食堂で片づけを進めていると、どうしても奏多と過ごした時のことを思い出してしまう暁。
「――そうだ! どうせなら今度奏多と行ってみたい場所を考えながら片付けをしたら、少しはこの寂しさがまぎれるかもしれない!」
それから暁は、奏多と行ってみたい場所を考えながら、楽しげに片付けをしたのだった。
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