第12話ー② 新しい出会い

 暁は優香と狂司を連れて、建物内を説明しながら回った。


「ここが教室な。それで――」


 暁たちが教室の前を歩いていると、そこへいろはとまゆおが現れる。


「お! もしかして新入り!? よろしく!!」

「あの、はじめまして……」


 いろはとまゆおはそれぞれ声を掛ける。


「はじめまして。私は糸原優香と申します。これからよろしくお願いします」

「烏丸狂司です。よろしくお願いします」


 優香は笑顔を作りながら答え、狂司は丁寧に頭を下げてから答えていた。


「優香ちゃんと狂司君ね! よろしく! アタシは速水いろはだよ! で、こっちはまゆお!」


 いろはは楽しそうに自己紹介をした後、まゆおに指を差す。


 まゆおは少々戸惑いつつ、


「あ、狭山まゆおです。よろしくお願いします」


 丁寧な口調でそう答えた。


 そんな頑張ったまゆおの姿を見て、いろはは嬉しそうに笑った。それからいろはは目線を暁の方に向けて、


「で、センセーたちは何してたの?」


 暁たちにそう問いかける。


「2人にこの施設の中を案内していたんだ。――あ、そうだ! なあいろは、優香を女子の生活スペースに案内してくれないか? 俺じゃ、あそこはいけないから……」


 暁がそう言うといろはは目を輝かせて、大きく頷いた。


「じゃあさっそくいこっか、優香ちゃん!!」


 いろははそう言って楽しそうに優香を連れ、女子の生活スペースへ向かっていった。


 嬉しそうだな、いろは。そして、ありがとう――


 そんなことを思いながら、暁は微笑む。


「――それじゃあ俺たちは、男子の生活スペースの方に行こう。まゆお、案内を頼めるか?」


 暁がそう言うと、


「はい。僕でよければ……」


 まゆおはそう言って小さく頷いた。


「ああ、よろしくな!」


 それから暁たちはまゆおの案内で男子の生活スペースへ向かったのだった。




 S級保護施設の生活スペースは、建物の上層階にある。男子は4階、女子は5階だ。そして3階にはシアタールームと食堂があり、2階に教室と医務室、1階に大浴場が入っていた。


「俺もちゃんとここに来るのは初めてだから、なんだか新鮮だな」


 男子の生活スペースに来た暁は、キョロキョロと辺りを見回しながらそう言った。


 この施設で生徒としていた時はずっと自室に隔離だったから、ちゃんと見るのは初めてだな――と昔のことを思い出す暁。


 そういえば、前に一度来ていたっけ。剛が暴走した時だったな……あの時はゆっくり見ている余裕なんてなかったから――


 暁はそう思いながら剛のことを思い出し、暗い表情をする。


 それから暁たちは男子の生活スペース内にある、生徒たちの共同生活スペースへとやってきた。


 そこにはテレビやソファなどがあり、その設備の充実さに暁は目を丸くしていた。


「――この共同スペースには、ミニキッチンと電子レンジがあります。大きなテレビもあるから、たまに女子たちも来てみんなで一緒にテレビを観たりしてます」


 まゆおは丁寧に狂司に説明していく。


「へえ、すごいな! 俺の部屋にあるテレビとは比べものにならない大きさだ! いいなあ……俺もこれからはここでテレビを観ようかな」


 暁はそう言って、大きなテレビを見つめる。


「狂司君の案内で来たはずなのに、先生が一番楽しそうですね」


 まゆおは微笑みながら、暁にそう言った。


 そんなに楽しそうにしている風に見えたのか!? ただ、大きなテレビが羨ましいと思っただけだったんだが――


 そう思いながら、若干の恥ずかしさを感じる暁。


「そ、そうだったよな! 狂司のために来たのにな! あはは。悪い、悪い!!」


 暁は頭を掻きながらまゆおと狂司にそう言った。


「僕は大丈夫ですよ。でも先生って、案外子供っぽいところもあるんですね。僕よりもずっと年上だったから、もっとクールな感じをイメージしていたんですけど……でも仲良くなれそうで安心しました!」


 そう言って狂司は無邪気に笑った。


 子供っぽいって……。まあ、確かにそんな行動はしたけれども――


 そして暁は無邪気に笑う狂司を見て、想像しているよりも年相応なんだと思い、なんだか安心していた。


「――狂司はそういう顔もできるんだな」

「そりゃ僕だって、まだまだ子供ですからね。確かに周りにはよく大人びているとは言われますけど」


 狂司は腰に手を当てて、そう言いながら笑っていた。


 暁の狂司を初めて見て、すごく大人びた少年だなという印象を抱いていた。


 それは言葉遣いや行動が子供っぽくないところと、年上の人間と対等に話ができているところを見ていたからだった。


 それでも、結局狂司はまだ小学生だ。普段は大人に合わせて接しているのかもしれないけれど、本当は子供らしくありたいのかもな――


 そんなことを思い、暁は狂司を見て笑った。


「おはよう、まゆお。……あ! もしかして新しい子?」


 暁たちが会話をしていると、食堂から戻ったキリヤがそう言って暁たちの元に歩み寄った。


「キリヤ君、おはよう。そうだよ。今、ここの案内をしていたんだ」

「そっか! 僕は桑島キリヤ。ここでは最年長なんだ。何かあったら、何でも相談してね」


 そう言って優しく狂司に微笑むキリヤ。


「ありがとうございます。僕は烏丸狂司です。よろしくお願いします」


 狂司はしっかりとした口調でキリヤに答えた。


「ふふふ。見た目通りにすごくしっかりしてそうだ。これなら心配なさそうだね。じゃあ、僕はこれで」


 そう言ってキリヤは自室に向かって歩いていった。


「キリヤ君はここのリーダーみたいな人なんだ。とても頼りになるし、優しい人だよ。何かあったら、頼るといい」


 まゆおはそう言って狂司に微笑む。


「へえ……そうですか」


 狂司はそう言って去っていくキリヤの背中を見つめる。


「――もし何かあれば、そうします!」


 そう言いながらまゆおの方を向き、狂司は笑ったのだった。


 なんだか一瞬キリヤを……いや。俺の気のせい、かな――?


 暁はそう思いながら首を傾げ、それから納得したように小さく頷いた。


「じゃあ、次は――」


 そう言ってまゆおは、暁と狂司を狂司がこれから使うことになる部屋まで連れて行った。


「ここが狂司君の使う部屋だよ」


 そこは机とベッドだけがある、シンプルな部屋だった。


「何もないですね」


 狂司はその部屋の正直な感想を述べる。


 確か、俺が初めてここへ来た時も同じことを思ったな――


 暁はそんなことをしみじみと思い出していた。


「まあ、ここから好きなようにカスタマイズしていってくれればいいさ。ネット通販とかも使えるから、それで好きなものを買い足せるし! 俺もみんなもそうしているからさ」


 暁がそう言って、ニっと笑うと、


「ええ。わかりました」


 狂司はそう言って頷いた。


「そういえば。狂司君は荷物が少ないみたいだけど、他の荷物は何時頃届くのかな?」


 まゆおは手荷物の少ない狂司を見てそう尋ねた。


「あ! 僕、荷物はこれだけなんですよ」


 そう言って持っているリュックを見せる狂司。


「そうなのか!? テレビゲームとかそういうのも持ってきてもよかったんだぞ!?」

「ゲームって……そこまでお子様でもないですよ!」


 少し不機嫌そうに答える狂司。


「そうか、そうか。それは悪かった!」


 小学生と言えば、テレビゲームが好きだろうと思い込んでいたが、実際はそんなこともないみたいだ。その認識を改めないとな――


 それから暁は、狂司にはどんな趣味があるのだろうと興味を持ち始める。


 植物の手入れ――はないか。他に荷物もないって言っていたし。料理――って感じでもないよな。やっぱり落ち着いているところを見ると読書とかなのかな? イラストとかが付いていないタイプの――


 暁はそんなことを、一人考え込んでいた。


 いつか話してくれる日が来るといいな、と暁は狂司を見ながらそう思ったのだった。




 それから暁たちは部屋に狂司を残し、2人で食堂へ向かった。


「まゆお、どうだ? 狂司とは仲良くやっていけそうか?」


 暁がそう尋ねると、


「そうですね。狂司君は年齢の割に大人びているし、空気を読んで行動できそうなタイプだなと僕は思いました。問題を起こすタイプにも見えないですし、きっと彼とはうまくやっていけそうだと思います」


 まゆおは嬉しそうに笑ってそう言った。


「そうか。よかった」


 そう言って暁も微笑んだ。


「それに。今までいなかったタイプの子だから、みんなにとっても良い方に向かいそうですね」


 まゆおはだいぶ狂司のことが気に入ったみたいだな! 狂司はまゆおにも良い影響を与えてくれそうだ――


 これから寝食を共にする新しい仲間。どんな楽しい思い出をつくっていけるのだろう、と狂司たちとの出会いを喜ぶ暁だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る