第12話ー① 新しい出会い

「ああ、朝か……」 


 暁は目を開けてそう言ってから身体を起こし、朝日が差しこむ窓に視線を向けた。


「ふあああ。静かな朝だな……」


 あくびをしながら、暁はそう呟いた。


 そして今まで目覚まし代わりでもあった、奏多のバイオリンの音が聞こえなくなってしまった朝に寂しく思う暁だった。


「いつまでも寂しがっていたらダメだよな!」


 そう言って両手の拳を握る暁。


 だって。今日は施設に、新しい生徒がやってくるんだからさ――!


 毎年3月に全国で『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の一斉検査を行うため、4月の進級進学のタイミングでS級保護施設に転入生のやってくることが多かった。


 そし今年の検査の結果、今年は珍しく2人の生徒がこの施設へ来ることになっていたのだった。


「何時に到着するんだろう。確か、着いたら研究所から連絡があるんだったよな」


 暁はそう呟いてスマホの画面に目を落とす。しかし、到着の連絡はまだ入っていなかった。


「まあとりあえず、朝メシでも食べに行こうかな」


 そして暁は私服に着替えてから、食堂へ向かったのだった。




 ――食堂にて。


 暁が食堂に着くと、そこにはキリヤとマリアがいた。


「あ、先生! おはよう!」「おはよう、先生」


 キリヤとマリアは交互に暁へそう言った。


「ああ、おはよう! キリヤとマリアだけか?」


 暁がそう言って首を傾げると、


「さっきまで真一もいたけど、もう部屋に戻っちゃったかな」


 笑いながらキリヤはそう言った。


 まあ、真一が食堂で誰かと長話……なんて姿は想像できないよな。見てみたいけど――!


「はは、そうか! まあ春休みだし、そんなもんだよな!」


 それから暁は食べ物が置いてあるカウンターから、食パンとサラダを取り、キリヤたちのいるテーブルへ向かった。


「隣、いいか?」

「もちろん! ね、マリア?」

「うん」


 そして暁はキリヤとマリアとの会話をしながら、朝食を楽しむのだった。




 ――数分後。食事を終えたキリヤは、朝食後のコーヒーを飲む暁を見て、


「そういえば、今日だっけ? 新しい生徒が来るのって?」


 そう尋ねた。


「ああ、そうなんだ。そろそろ連絡があるはずなんだけどな。確か所長は、今日の午前には着くように来るって言っていたし」


 そう言ってスマホの画面を確認する暁。


 研究所からの連絡はなし、か――。


 そしてその話を聞いていたマリアは、不安そうな表情をして、


「どんな子がくるんだろうね。仲良くなれるかな……」


 そう言って俯いた。


 そんなマリアを見つめ、暁はマリアの能力――『フェロモン』であった家族との一件を思い出す。


 マリアが心配する気持ちもわからなくもない。自分の能力のこともあるから、うまくやっていけるか不安なんだろうな――


 暁がそんなことを思っていると、


「マリアなら大丈夫。きっとすぐに仲良くなれるよ」


 キリヤは微笑みながらマリアにそう言った。


「うん。ありがと、キリヤ!」


 微笑むキリヤを見たマリアは、そう言って笑った。


 その一言でマリアを笑顔にしたキリヤを見ていた暁は、さすが兄妹。お互いのことを良くわかっている――とそう思ったのだった。


 改めて思うよ。キリヤとマリアは本当に仲の良い兄妹なんだなってさ――


 そう思いながら微笑む暁。


「兄妹、か……」


 暁はそんなことを呟きつつ、自分の兄妹の顔が頭をよぎった。


『お兄ちゃん、遊ぼうよ!!』『お兄ちゃん――!』


「俺も、キリヤたちみたいな兄妹になりたかったな……」


 そんなキリヤたちを見て、暁は微笑ましく思うと同時に少し寂しい気持ちになっていた。


 そして、それはもう叶わない願いなんだ――と思い、俯く暁。


 それから突然振動したスマホに驚いた暁は、はっとして顔を上げる。


 暁がそのスマホの画面を見ると、一軒のメールが届いていた。


「――あ、やっと着いたみたいだな」

「そうなんだ、楽しみだね!」


 キリヤは嬉しそうに笑ってそう言った。


 今は兄妹と離れ離れだけど、キリヤや他の生徒たちがいてくれるから俺は寂しくなんてないよな――


 そう思いながらキリヤを見て、暁は微笑みながら、


「ああ、そうだな!」


 とそう言った。


 それから暁は食器を片付けて、エントランスゲートに向かったのだった。




 エントランスゲートに着いた暁は、そこに2台の車が停まっているところを見つける。


「お、あれだな」


 そう言ってから暁がその車に近づくと、それぞれの車の中から子供たちが姿を現した。


 一人は茶色の髪を一つに括り、服装は着崩すこともなくかっちりしていて、見るからに優等生タイプの少女。


 そしてもう一人はきれいに整えられた黒髪で見た目にあどけなさは残っているが、運転手への対応の丁寧さに見た目のよりも大人びた印象のある少年だった。


「じゃあ、宜しくお願い致します」


 車の中にいた政府の人にそう言われた暁は、お辞儀で返した。


 そして車を見送った暁たちは、建物に向かって歩き出す。


「俺は三谷暁。ここで教師をやっている! これからよろしくな!!」


 暁は歩きながら、後ろを歩く2人に自己紹介をした。


 そしてそれを聞いた2人は順番に自己紹介を始める。



「私の名前は糸原いとはら優香ゆうかと申します。高校2年です。未熟者で至らぬところはございますが、これからよろしくお願い致しますね、先生」


「僕の名前は烏丸からすま狂司きょうじです。12歳で小学6年生です。よろしくお願いします」


「優香に狂司か! これからよろしくな!!」



 暁は後ろを歩く優香と狂司に振り返り、笑いながらそう言った。


 2人とも悪いやつじゃなさそうだ。礼儀正しくてちゃんとしているようだし、みんなともうまくやっていけそうだな――


 暁はそう思いながら、優香と狂司を見てほっと胸を撫で下ろしたのだった。


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