第11.5話ー② 変化
検査を終えたキリヤは、所長に呼ばれて所長室にいた。
キリヤは部屋にあるソファにかけ、幸せそうな顔でコーヒーを飲む所長を見つめていた。
それからなかなか話し始めない所長にしびれを切らしたキリヤは、
「あ、あの……所長、話って」
探るようにそう尋ねた。
「ああ、すまない! 実は――君には言っておかなくちゃいけないことがあってね。君の、能力のことなんだが……」
「え、僕の能力……? 何か、あったんですか?」
キリヤが不安な顔でそう尋ねると、所長は深刻そうな顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「薄々気が付いているとは思うが、君も暁君と同様に、能力は永遠に消失しない身体になった。そうなると、君はこれからどうなるかわかっているだろう」
「――僕には自由な未来がない、と?」
「そうだ」
暴走後に心を取り戻した時点で、そうなるだろうなってことはわかっていたさ――
キリヤはまっすぐに所長の顔を見ると、
「だったら、僕は僕にしかできないことをして、未来を切り開くだけですよ。先生がそうしたように」
そう言って微笑んだ。
自分一人だったら、絶望していたかもしれない――キリヤはそう思ってから、暁の顔を思い浮かべた。
先生はどんな過酷な未来も自分で切り開いた、僕の尊敬すべき人――だからそんな先生がいてくれれば、僕はきっと大丈夫だって思うんだ――
「はは、そうか。確かに暁君がいれば、君のことは心配なさそうだな!」
そう言って所長は笑った。
「ああ、そういえば! 昔、同じ話を暁君にしたときはね――」
それから所長はキリヤが知らない暁の話をキリヤに聞かせた。
彼はここで過酷な運命に振り回されながらも自分の未来を信じて日々を過ごしていたんだよ、と所長は言った。
「暁君は友達との楽しい思い出をそんなに作れなかったから、一緒にたくさん楽しい思い出をつくってやってほしい。君とは長い付き合いになるだろうからね」
所長がそう言って微笑むと、
「もちろんです!」
キリヤは満面の笑みでそう答える。
「それから、もう一つ。君に言っておきたいことがある……」
そう言って深刻な顔をする所長。
「どうしたんですか、そんな深刻な顔をして――も、もしかしてやっぱり僕の身体に何かあったんですか!?」
キリヤは目を見張りながらそう言った。
「そうだね。実はな――」
そして所長はその内容をキリヤに告げたのだった。
施設に戻る車の中で、キリヤは所長に言われたことについて考えていた。
「この力の意味を考えなくちゃね……」
太陽が沈み始める空を見ながら、キリヤはそう呟いた。
なぜこの世界に『
そして僕たち能力者が得たこの能力は、何のために存在するんだ――
キリヤが延々とそう考えていると、いつの間にかキリヤを乗せた車は施設に到着していた。
「じゃあ、キリヤ君。お疲れ様」
「今日もありがとうございます」
キリヤは運転手の青年にそう言って深々と頭を下げてから車を降りた。それからエントランスゲートを潜り、施設の敷地内に入っていく。
「ちょうど夕食の時間だね」
キリヤはそう呟きながら、食堂へ向かったのだった。
――食堂にて。
食堂の入り口に着いたキリヤは、どこに座ろうかと食堂内を一望していると、生徒たちがいつものように楽しそうに食事をしている姿が目に入った。
やっぱりここでみんなの顔を見ていると落ち着くな――
そう思いながら、キリヤは微笑む。
「さて、僕もご飯に――」
「あ! キリヤ、おかえり!!」
キリヤに気づいたマリアが食事の手を止めて、そう言いながら手を上げた。
「ただいま、マリア」
キリヤは微笑みながら、マリアにそう答えた。
すると、キリヤの傍に暁がやってきて、
「検査はどうだった?」
心配そうにそう尋ねた。
「問題なかったよ! 数値も安定しているって、所長も言っていたかな。それにそろそろ能力をセーブしなくても大丈夫って!」
キリヤがそう言って笑うと、暁はほっと胸を撫で下ろして、
「そうか。それは良かった! でも、無理はするなよ!!」
そう言って笑った。
「うん。ありがと、先生!」
剛の件があってから、暁が生徒たちのことをより心配するようになったことを察していたキリヤ。
先生は先生なりに自分のできることをしようって思っているんだろうな――
そう思いながら、キリヤは微笑む暁の顔を見つめていた。
「そうだ! 剛のところには行ってきたのか?」
「うん。顔色は良かったよ! 今にも目を覚ましそうだった」
「そうか。それならよかった」
暁はそう言って、悲しそうに笑う。
そんな暁の顔を見てハッとするキリヤ。
このまままた先生がふさぎ込んでしまうと、奏多との約束が――!
「あーあ。今日はいろんな検査をされて、お昼ご飯を食べ損ねちゃったんだよね! お腹空いたから僕もご飯食べよっと!」
キリヤはわざとおどけるようにそう言った。
すると、
「そんな子供みたいなこと言って」
と言いながら、暁はクスクスと笑った。
そんな暁を見たキリヤは安堵の表情を浮かべる。
僕は奏多から先生のことを任されているんだ。だから先生が一人で悩まないように、僕は先生を支えないとね――
それからキリヤは、最後に所長と話したことを思い返してから小さく頷いた。
確かにいろいろ気になることはあるけれど、今ここにあるものを大事にしながら、毎日を過ごしていくことの方が大切だよね――
それからキリヤは、みんなで夕食を楽しんだのだった。
――そして時間は流れて4月となり、また新たな出会いがこの施設に訪れる。
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