第11.5話ー① 変化
奏多が施設を去ってから、数日後。キリヤは定期検査のため、研究所に来ていた。
「えっと……確かこっちだっけ……?」
キリヤはどこまでも続く真っ白な廊下を見て、ため息をこぼした。
これって、どこまで続いているのかな。僕はいつになったら、剛のところに辿り着くんだろう――
「もっとわかりやすいつくりにできなかったのかな……どこもかしこも同じような場所に見えるんだけど……」
キリヤがそんな悪態をついていると、前方から見覚えのある女性がキリヤに向かって歩いてきた。
「やあキリヤ君、久しぶり! こんなところでどうしたんだい? もしかして、迷子?」
そう言ってにこやかな顔をするゆめか。
ゆめかは普段カウンセラーとして研究所に勤務しており、たまに研究所へやって来るキリヤや暁を見かけるたびにこうして声を掛けていた。
「迷子と言えば、迷子ですね……剛のお見舞いがしたいんですけど、どこも同じ景色が続いていて、剛の部屋の場所がわからないんですよ」
キリヤはため息交じりにそう言った。
「ああ。なるほど。じゃあ私が案内するよ! ついてきてくれ」
「ありがとうございます!」
そしてキリヤはゆめかの後ろについていくことにした。
「ここってずっと同じ廊下が続くから、なかなか場所を覚えられないだろう?」
笑いながらそう言って歩くゆめかに、キリヤは苦笑いをする。
「あはは……でも、ゆめかさんは1年前にここへ来たんですよね? どうやって、ここの構造を覚えたんですか?」
「覚えたというか……知っていた、かな!」
「知っていた?」
ゆめかの言葉に、首を傾げるキリヤ。
それからゆめかは振り返り、
「ああ。そうさ」
と不思議な笑顔でキリヤにそう言った。
そしてゆめかは再び前を向き、何事もなかったように歩き出した。
知っていたって……それってどういう意味なんだろう。ここへ来る前から、元々ここの関係者だったとか――?
キリヤはゆめかの後姿を見ながら、その言葉の意味を考えていた。
でもきっと僕がどれだけ考えたって、ゆめかさんのその言葉の真実には辿りつけないような気がする。ゆめかさんは僕の考えが及ばないくらい不思議な人だと思うから――
キリヤがそんなことを考えているうちに、剛の部屋へ到着していた。
「さあ、ここだよ。もしかしたら、今の君が見るのは少し酷かもしれないけれど」
ゆめかにそう言われたキリヤは、息を飲んでから扉のノブにゆっくりと手を掛けて、その扉を開けた。
そしてその扉の向こう――部屋の奥にあるベッドで眠る剛を見つけたキリヤは、剛のその身体にたくさんの管が取り付けられていることを知る。
まるで、機械に無理やり生かされているようだ――
眠っている剛を見たキリヤは、そう思っていた。
そして、自分も一歩間違えば同じようになっていたのか――と思い、背筋に冷たいものが走るキリヤ。
「大丈夫かい?」
部屋になかなか入らないキリヤに、ゆめかは心配そうな声でそう言った。
「あ、はい。大丈夫です」
キリヤはそう言って頷くと、ゆっくりとその部屋に入っていった。
そしてキリヤは剛のそばに行き、近くの椅子に腰かける。
「剛、久しぶり」
キリヤがそう声を掛けても、剛からの返事はなかった。
そうだよね――と思いながら、悲し気な顔をするキリヤ。
それでもキリヤはそのまま声を掛け続けた。
「奏多は海外に旅立ったよ。それにもうすぐ新しい人も入ってくるって。施設の中はこれからどんどん変わっていく。……剛は見てみたくない? これから先、僕らの施設でどんなことが起こるのか」
キリヤがどれだけ話しかけても、剛からの答えはなく、その個室は閑寂していた。
「――ねえ、剛。僕は剛が必ず戻ってくるって信じているからね。だから自分に負けないでね」
キリヤはそう言ってから立ち上がった。
「もう、いいのかい?」
部屋の外からキリヤの様子を見ていたゆめかは、首を傾げてそう言った。
「はい。話したいことはたくさんあるけど、それは剛が起きてからまた話せばいいって思うので」
キリヤは笑いながら、ゆめかにそう答えた。
「ふふっ……そうか」
「はい」
「それじゃあ、検査室まで送っていくよ! 今日は定期検査のために来たんだったね」
「よろしくお願いします!」
それからキリヤは、ゆめかに連れられ、検査室に向かったのだった。
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