第11話ー④ 旅立ち
数日前のこと。キリヤはもうすぐ卒業する奏多に何かできないかと考えていた。
「何か贈り物をするとか? でも奏多って何がほしいのか全然わからないな……」
僕は奏多のこと、何にも知らないんだな――
そんなことを思いつつ、キリヤは大きなため息をついた。
そして、こういう時こそ奏多のことをよく知っている先生に相談したらいいのでは――と思い、キリヤは職員室へ向かっていた。
奏多は僕からの贈り物を喜んでくれるだろうか――
そんなことを思いながら、キリヤは廊下を歩いていた。
「そうだ! どうせなら、先生と2人で奏多に何か――ん?」
職員室の前についたキリヤは、暁が誰かと一緒にいることに気づいた。
「奏多、かな?」
さすがに本人がいるところで何がほしいか相談するわけにはいかないな――
そう思ったキリヤは、職員室を去ろうとしようとしたとき、ある現場を目撃する。
「え……」
それは、奏多が暁の背中にそっと手を回し、優しく抱きしめているところだった。
それから抱き合う2人を見て、キリヤは察した。
僕の恋はここまでなんだ――と。
そしてキリヤは喪失感を抱きながら、その場でしゃがみこんだ。
「――わかっていたけど、でも……やっぱり辛いや」
キリヤはそう言って、目に涙を浮かべた。
こぼれそうになる涙を堪えて、キリヤは暁たちにばれないよう静かにその場を去ったのだった。
自室に戻ったキリヤはそのままベッドに腰かけ、堪えていた涙をこぼす。
こんな姿、誰にも見せられないよね――
初めての失恋に、キリヤは悲しみの涙が止まらなかった。
「奏多の想いはわかっているつもりだったんだけどな……」
いつかはこんな日が来るってわかっていたのに、僕は何を期待していたんだろう――
それからキリヤはしばらくの間、涙を流し続け、やっと気持ちの整理ができた時にその涙を拭った。
僕も変わらないとね……。いつまでも同じところにはいられない――!
そしてキリヤは次に進むため、ある行動を移すことにしたのだった。
翌日、授業を終えたキリヤは奏多を屋上に呼び出した。
「キリヤ、どうしたんですか?」
呼び出された意味が分からない奏多は、心配そうな顔をしてキリヤにそう言った。
「もしかして、また先生と喧嘩を!?」
キリヤは奏多の問いに首を横に振る。
「ううん、違うよ。ただ……けじめをつけに来ただけ」
「けじめ?」
そう言って首を傾げる奏多。
「そう」
そしてキリヤは脈打つ心臓の鼓動を整えるために軽く息を吐いてから、ゆっくりと奏多に告げる。
「僕は奏多が好き。ずっとずっと好きだったんだ」
それを聞いた奏多は、少々困った表情をした。
そう、だよね。だって奏多は僕のことなんて――
キリヤはそんなことを思いつつ、奏多の答えを待っていた。
そして奏多はしばらく困った顔をして考え込み、それから小さく頷く。
答えが出たのかな――
キリヤはそう思いながら、奏多を見つめた。
「ありがとう、キリヤ。私もキリヤのこと、好きですよ。……大切な家族として。そして仲間として。だから――」
「わかった。もうわかったから。だから――ありがとね、奏多。僕も、今は奏多のことを、大切な仲間で家族だって思っているよ」
奏多の言葉を遮るようにそう言って、キリヤは精一杯の笑顔をした。
「ごめんなさい」
奏多は、申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
「もう、謝らないでよ! それにこれでスッキリした。僕もやっと前に進める」
それからキリヤは屋上の鉄格子に手を掛けて、空を見上げると、
「これからどんな未来が待っているか、楽しみだね。きっとたくさんの出会いと別れがあるんだろうな」
微笑みながらそう言った。
「そうですね。私もこれからが楽しみです!」
キリヤはそう言う奏多の方を向いて、
「うん!」
と満面の笑みでそう言ったのだった。
「――キリヤ。私がいない間、先生のことを頼みましたよ」
奏多が真剣な顔をしてそう言うと、
「他の女の人が寄ってこないように?」
キリヤは意地悪な顔をしてそう言った。
「それもそうですが、メンタル面とかもですね! 先生はああみえて弱い部分がありますから」
確かに。この間の剛の件もあったしね――
そう思いながら、小さく頷くキリヤ。
「先生はキリヤのことをかなり信用しているようですし、このお願いはキリヤにしか頼めないなと思って」
先生が僕のことを……だったら、この依頼を断る理由はないよね! まあでも――
「たった今振った相手に、好きな人のこと頼むなんてね!」
キリヤが若干の皮肉を込めてそう言うと、
「私はそういう女ですもの。それにそんなキリヤだから、安心して頼めるのですよ」
奏多は悪い顔をして、キリヤにそう言った。
「これはちゃんとしないと、後から何をされるかわかったもんじゃないね!」
そう言って笑うキリヤ。
そんなキリヤを見て、奏多も楽しそうに笑った。
お互いに思う人は同じ――キリヤは奏多の頼みを引き受けることにしたのだった。
「あ、そういえば。昨日の職員室での――えっと、先生と……その――」
キリヤがもごもごとそう言うと、奏多ははっとして、
「もしかして、見ました?」
キリヤにそう尋ねた。
「はい、ごめんなさい」
「まったく……」
奏多は恥ずかしそうにそう言って頬を赤らめたが、その顔はとても幸せそうでキリヤはなんだか嬉しく思ったのだった。
そんな奏多を見て、奏多には先生と2人で幸せになってほしいな――とキリヤは思っていた。
「――奏多、頑張ってね」
「ええ。ありがとう、キリヤ!」
そしてキリヤの初恋は、終わりを告げたのだった。
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