第11話ー① 旅立ち

 剛が暴走してから、1か月が経過した。


 剛はあれから何も変わらず、未だに目を覚ますこともなく眠り続けていた。


 そしてそんな剛の様子を見るために、暁は研究所に訪れていたのだった。


 ――研究所、剛の個室にて。


「1か月も経ったのに、やっぱり相変わらずか……」


 眠る剛の顔を見ながら、暁はそんなことを呟いていた。


 小さく寝息を立てながら、スヤスヤと眠る剛。


 こうしてみると、管に繋がれている以外は本当にただ眠っているだけなんだよな――


 そう思いながら、暁の表情は曇る。


「でも俺は、信じるって決めた。剛、俺はお前をずっと待っているからな」


 そう言ってから、暁は立ち上がる。


「じゃあ、俺はもう行くよ。研究所へ来たのは、もう一つ理由があるんだ」


 それから剛に微笑みかけて、暁は部屋を出たのだった。


 


 剛の部屋を出た暁は、研究所に併設されているカフェへやってきた。


「ここで待っていれば、いつかはきっと……」


 暁は剛の様子を見るほかに、もう一つ研究所でやっておきないことがあったのだった。


 暁は注文したホットコーヒーを受け取ると、空いていた窓側の席に腰かけた。


「やっぱり連絡入れるべきだったかな」


 暁は右手で頬杖をつきながら、そんなことを呟く。


 そもそも毎日ここへきているとは限らないのに。もしも今日会えなかったら、どうしようか――


 そんなことを思っていると、暁は背後に人の気配を感じた。


 そして暁が振り返る前に、その主は暁に声を掛ける。


「やあ、暁君。調子はどうだい?」


 暁が振り返ると、そこには優しい笑顔で立っている白銀ゆめかの姿があった。


「白銀さん!? あははは。俺は相変わらずって感じですね」


 笑顔でそう返す暁。


 そしてそんな暁を見たゆめかは「そうか」と言って安堵の表情をした。


 もしかして、俺のことを気にしてくれていたのだろうか――


 そう思いながら、ゆめかを見つめる暁。


 でも、まさかここで待っていて本当に白銀さんと会えるなんて――と暁は驚いていた。


 それは暁がこの研究所へ来た理由の一つである、ゆめかに会うという事が叶ったからだった。


 今日は無理かもしれないと思っていたのに、ラッキーだったな――


「どうやら、もう大丈夫みたいだね。よかったよ」


 そう言って微笑むゆめか。


 それからゆめかは暁の座っていたテーブルにつく。


「あの、白銀さん。その節はありがとうございました。言われたことの意味、やっとわかったんです。だからずっとお礼を言いたくて」


 暁はゆめかの顔をまっすぐに見て、そう言った。


 するとゆめかはクスクスと笑い、


「なるほど。ここにいれば、私に会えると思って、待っていてくれたんだね。でも、お礼なんていいよ! 私も恩返しみたいなものだから」


 何かを思い出すような顔でそう言った。


「恩返し? それってどういう意味ですか?」

「今はわからなくていいさ。いつかその意味が分かるときが来るからね。じゃあ、私は仕事に戻るよ! またね!」


 ゆめかはそう言って立ち上がり、カフェを去っていったのだった。


 もしかして白銀さんは、俺が研究所に来ていることを知っていて、わざわざ俺と会うためにここへ来てくれたのだろうか――


 ゆめかの去っていった方を見つめながら、暁はそんなことを思う。


「そうだ。さっきの恩返しって何のことだろう」


 そう呟いて、暁は首を傾げた。


 やっぱり白銀さんって不思議な人だな――


「まあ、いつかその意味がわかると白銀さんも言っていたし、今はそんなに気にすることでもないのかもしれないな」


 目的も達成したことだし、施設に戻ろう。生徒たちが待っているあの施設に――


 それから暁はコーヒーを飲み干し、カフェを後にしたのだった。

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