第4.5話 約束
――夕食後、食堂にて。
「まゆおといろはが仲直りしてくれて、ほっとしたな……」
そんなことを呟きながら、暁はキッチンスペースでいつものように夕食の片付けをしていた。
一時はどうなることかと思ったけれど、いろははちゃんとまゆおと話せたみたいだな――
そう思いながら、暁は嬉しそうに微笑んだ。
その後も一人で片づけを進めていると、
「先生、今日もお手伝いしますね」
奏多がそう言って、食堂にあるキッチンスペースにやってきた。
それから奏多は暁の隣に立ち、置いてあった布巾で暁の洗った皿を拭き始める。
「いつもありがとな、奏多」
「いえいえ。私がやりたくてやっていることなので」
奏多は嬉しそうにそう言って笑った。
あの日の発表会以来、奏多は食堂で片づけをする暁を毎日手伝っていた。
本当にいつもありがたいよ。今度、奏多には何かお礼をしないとな――
暁は楽しそうに話す奏多を見ながら、そんなことを思う。
「――それで今日はそんなことがあったんです! ふふふ」
そういえば。出会った頃より奏多はよく笑うようになったな――
「奏多は最近、本当に良く笑うようになったよな」
暁が楽しそうに笑う奏多を見てそう言うと、
「そうでしょうか。もしそうなら、それは先生のおかげですね」
ニコッと笑いながら奏多はそう言った。
「俺の、おかげ?」
「ええ。やりたいことをやれ――とそう言ってもらえなかったら、今の私はなかったかもしれませんので。ふふふ」
こうして生徒の成長が見られると、教師になって本当によかったと思えるよ――
暁はそう思いながら、自然と笑顔になっていた。
「そうだ、奏多。いつも手伝ってもらって悪いから、何かお礼がしたいんだけど……何がいい?」
「あら! 私にほしいものを聞くなんて……先生のお財布の中身で買えるでしょうか」
奏多は左頬に手を当てて、困った振りをしながらニヤニヤと笑う。
なんだか、すっごく悪い顔してるなあ。もしかして俺、からかわれてるのか――!?
「い、いや。俺のポケットマネーで買えるものにしてくれるとありがたい……」
それで奏多の満足いくものをプレゼントできるとは思わないけどな――
苦笑いをしながら、暁はそう思った。
「うふふ。そうですか。でもせっかく先生からの贈り物ですし……うーん。そうだ! 先生の時間を1日私にくださいませんか?」
奏多は頭を傾けながらそう言って微笑んだ。
「え?」
奏多の要望に目を丸くする暁。
時間をくれってどういうことだ? そもそも時間って、人に渡せるものなんだろうか――
暁は真剣な表情で、そんなことを考えていた。
そんな暁を見て、奏多はため息を吐くと、
「――まったく。先生は鈍いですね。つまり、デートです! 私とデートをしましょう!」
そう言ってニコッと笑った。
「デ、デート!?」
「はい! 外に出かけて、街を歩いたり、食事をしたり――」
いやいやいや。俺、デートなんてしたことないぞ!? しかも――
「奏多は俺の生徒だし……何か変な噂とか立ったら、嫌だろう?」
「変な噂って? なんです?」
白々しい顔で首を傾げる奏多。
「俺たちが怪しい関係に思われるかもしれないだろう?」
「ふふふ。私は構いませんよ?」
「え!?」
奏多が構わなくても、俺は構うんだよな――
「さて、片付けもひと段落しましたし、私は部屋に戻りますね。先生、素敵なお返事お待ちしています。では、おやすみなさい」
奏多はそう言って、楽しそうに食堂を出て行った。
「ああ、おやすみ――」
そして一人残された暁は、ただ茫然とその場に佇んでいた。
「デート……俺と、奏多が!?」
犯罪じゃないのか、それって――!!
「ああああ、なんでこんなことに……」
それから暁はそわそわした心が落ち着くまで、食堂で一人過ごしたのだった。
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