第2話ー③ 辿った道
能力の暴走後、暁は能力者の研究をしている専用の研究所へと運ばれていた。
その研究所では、暁のように能力が暴走した子供を収容し、研究している場所だった。
「新しい子はどうだい?」
白衣を着た男性――研究所の所長、櫻井がモニターを見つめる研究員にそう尋ねた。
「所長、お疲れ様です。えっと……未だに意識は戻らないですね。やはりもう彼は……」
研究員がそう言うと、所長はそのモニターを見つめる。そこには眠りについた暁の姿があった。
「能力が暴走すれば、もう目は覚まさない……だったよな」
所長は悲し気な顔でそう言った。
「とりあえず、データはすべて研究用に記録しておきます」
「ああ、よろしくな」
『
そのため、能力が暴走し眠りについた子供たちのデータは、その能力の謎を解く材料とされていた。
そして暁もその対象に選ばれ、眠りながらも自身のデータを提供し続けたのだった。
* * *
――現在、S級保護施設にて。
「あれ? 暴走した心は修復されないって言ったけど、暁先生にはちゃんと心が残っているじゃないか」
疑問に思った剛は暁にそう尋ねた。
「そうだな。それには理由があるんだよ」
暁は笑いながらそう言って、話を続けた。
* * *
暁が眠りについてから、1か月が経過した頃。
観測ルームでは研究員たちがモニターを眺めながら、そこに映る暁のデータを見て会話をしていた。
「被検体の調子はどうですか?」
「え……これは」
そう言って目を見開く研究員の男性。
「どうしたんです?」
「心の修復が進んでいる。こんなのは前代未聞だぞ」
「本当ですね……でも確か能力が暴走して、破壊された心は元には戻らないんじゃ――」
その後、暁が目を覚まし、研究所では大きな話題となった。
そして暁は今まであり得ないとされていた心の修復が完了し、収容されて3か月で感情が戻り、研究所内を自由に歩けるようになったのだった。
研究員たちはそんな暁を見て、
「『無効化』の影響か?」
「心の強さが、自身の心を救ったのか?」
と様々な仮説を立てたが、誰もその謎を解き明かすことはできなかった。
しかし暁の心が完全に修復したという事実だけは本物だった。
* * *
――数か月後。
能力を制御ができるようになった暁は、所長から元の施設に戻っても良いという提案をされた。
「――俺は、戻りません。ここで俺にできることをやらせてください。俺みたいに能力のせいで傷ついた子供たちに何かできるのなら」
そう言って笑った。
自分がなぜそう思うようになったのか、この時に暁は少し疑問を抱いたのだった。
それから研究所に残った暁は、能力者の子供たちのためにと自分のデータを提供し続ける日々が始まった。
そしてある検査をしていた時、暁はふといつか聞いた『君の力は社会のためになる』という言葉を思い出していた。
「そうだな。俺は今の俺ができる精一杯のことをやろう」
そして、もう絶対にあきらめない。自分の人生を――
目覚めるまでは考えもしなかったその思いに、暁は再び疑問を抱いたが、きっと自分の心が良い方に向かっているのだろうと理解することにしたのだった。
そして時は流れ、暁は18歳になった。
研究所内の居住スペースにいた暁は、唐突に押しかけて来た所長と他愛ない会話をしていた。
「――ああ、そうだ。暁くんはもうすぐ高校課程の修了時期だけど……進路をどうするか、決めたかい?」
所長の問いに暁は少し照れながら、
「はい。本当は諦めようって思っていたことなんですけど、でもやっぱり諦めたくなくて……俺、教師を目指します」
そう答えて笑った。
「ほう、教師か」
「ええ。普通の教師にはなれないかもしれないですけど、俺のように自分の能力で人生が大きく変わってしまって、人生に悩む子供たちの力になれるような教師になりたいんです」
決意と覚悟を込めた瞳で暁はそう言った。
それは、暁がこの場所で過ごすうちに芽生えた夢だった。
「そうか」
所長はそう言って小さく頷くと、
「じゃあ、やれるところまでがんばりなさい!」
満面の笑みでそう言いながら、暁の肩にポンっと両手を乗せた。
そんな所長の顔を見た暁は、「はいっ!」と満面の笑みで返したのだった。
それから、仕事があるからと所長が暁の部屋を後にし、一人になった暁は進学する大学を決めるためにウェブサイトに目を通していた。
「所長にあんな話はしたものの、能力が消失しないことには話にならないよな……」
暁は受験する大学のサイトを見ながら、そんなことを呟いた。
教師になるには大学進学のための勉強はもちろん、政府公認の施設から出る必要があった。
そしてその施設を出るためには、能力の消失を確認するか、危険ではない数値まで減少しているかの検査をしなくてはならなかったのだった。
「さすがの俺ももう18歳だし、少しくらいは能力の低下があるかもしれないよな!」
後日、暁はそんな少しの期待を込めて、定期検査に挑んだ。しかし、その結果は暁にとって思わしくないものとなった――
検査結果の紙を持って暁の部屋を訪れた所長は、
「暁くん。検査の結果だが……能力の消失は、見られなかったよ」
暗い表情でそう告げた。
「そう、ですか……」
まだダメだったのか――そう思い、暁は俯いた。
「それとなんだが……能力値の低下も見られなかった。君は二つ目の能力が見つかったあの日から、能力値の変化が全くないみたいでね――」
所長のその言葉に、暁はガッと顔を上げて、
「全く変化がない……? でも最近、心は安定してきているって所長は言っていましたよね?」
そう言って所長の両腕を掴んだ。
「あ、ああ。今の君はとても安定している。だが……」
所長はそう言って悲しそうに目を伏せた。
安定しているのと、能力値が減少するのとでは違うってことなのか。やっぱり俺の夢は叶わないのか――
暁はそう思い、俯いた。
そしてその時、暁の頭にある言葉がよぎる。
『お前は今できることを全力でやれ。そうしたら、道は開けるから』
そうだ。俺はそう言われた。あきらめなければ、道は開けるって――!
誰が言った言葉なのかは思い出せない暁だったが、その言葉に元気づけられたのは確かだった。
「――わかりました。志望校の受験は諦めます」
「悪いな。君にばかり辛い思いをさせてしまって……」
所長は辛そうな顔をして、暁にそう言った。
そんな所長を見た暁は笑顔を作り、
「もう! 所長が落ち込まないでくださいよ! 今は能力者に特化したオンライン大学もあるんだし! 夢が途切れたわけじゃないです!」
明るい声でそう言った。
その後、暁は志望していた大学への入学は叶わなかったが、能力者のためのオンライン大学で教師になるための勉強を始めた。
「ここにいるみんなは、俺みたいに能力がなくならなくても教師になることを諦めなかった仲間なんだな」
暁は共に夢へ向かって頑張る仲間の存在に勇気づけられながら、勉強に励んでいた。
しかし入学から数か月が経ったある日。共に学んでいた同級生の一人が能力を消失させて、一般の大学へ編入していった。
それから同級生たちが次々と能力の消失をさせ、編入していく度、暁は焦りを感じていった。
もしかしてこのまま俺だけ、能力がなくならないのでは――
検査の度に変わらない数値を目にして、そんな不安が頭をよぎることもあった。
「そんなことをいくら考えたって仕方がない。俺は俺が今できること、やりたいことをやるんだ」
そう自分に言い聞かせて、暁は勉学に励んだのだった。
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