第2話 私のパンツがみたいの?

 告白して振られてしまったら、これまでと同じ関係でいられなくなるのが一般的だと思う。


 ……だけど俺達は違った。


 振られた翌日の朝も、文乃あやのはいつものように、俺の部屋に訪れ、いつものように俺を叩き起こし、いつものように、一緒に学校へ行った。


 学校での様子も別段変わらなかった。


 告白失敗によって、これまでの日々が失われたと思っていた俺にとって、これは嬉しい誤算だった。


 そして放課後もいつもと変わらなかった。


 普通に一緒に帰り、何食わぬ顔で俺の部屋に上がり込み、ベッドの上で寝っ転がって漫画を読む。


 ここまで、何も変わらないと、昨日の告白がまるで嘘のように感じてしまう。


「なあ文乃、俺、昨日お前に告白したよな」

「うん、告白されたよ」

「俺、振られたよな」

「うん、振ったよ」

「……そうか、ありがとう」

「いえいえ、どうしたしまして」


 異次元にでも迷い込んだ気分だ。


 だが、それはそれとして、これは良い眺めなのだ。あいつが足をバタつかせているせいで、チラチラとパンツが見えるのだ。

 たまにモロに見える。


「ねえ真喜雄まきお

「どうした?」

「あのさ、さりげなく見るのは良いけど、ガン見はやめてくれる? さすがに恥ずかしいし」

 ……普通にバレてた。


 ていうか、こんな場合なんて言えばいいだろう。


『ああ、悪い悪い、今度から気を付けるわ』

 とか、言えばいいのか?

 それとも、

『いや、見てねーし、何疑ってんだよ』的に誤魔化せばいいのか?

 そんな事を考えている間も、文乃は頬を膨らませ俺を睨む。

 

「ていうか、見られるのが嫌なら、そんな格好で漫画読むなよ」

 俺は苦し紛れに、逆ギレとも言える台詞で返してみた。

 すると、予想だにしていなかった答えが、文乃から返って来た。


「ねえ、そんなにパンツって見たい?」

「……え」


 文乃は漫画を読むのを中断し、ベッドの上で四つん這いになり、俺に近づいて来た。


「ねえ、真喜雄は私のパンツがみたいの?」

 こ……こいつ。

 声色まで変えやがった。

 これはいわゆる、猫撫で声だ。


 まあ、ぶっちゃけみたい!

 昨日までなら、迷うことなくそう答えていた。

 

 だが、昨日と今日とでは状況が違う。

 昨日までは恋人になる可能性のあった幼馴染だが、今日からはが確定している。

 そんな関係性でパンツを見たいと言うのは、あまりにも身体だけが目的みたいじゃないか?


 ていうか、そんな質問を俺に投げかけてくる、文乃も、身体だけの関係を望んでいるのか?


 文乃の一言で俺の頭はフル回転した。


「ねえ、真喜雄どうなの? 見たいの?」

 くっ……なんて答えるのが正解なんだ。


 いくら考えても答えが出なかった。

 そんな俺は、とても曖昧な返答を返した。


「み、見せてくれるなら……」

 自分主体じゃないとても、卑怯な回答だ。

 だが、振られたばかりの俺にできる、精一杯、本能に忠実に従った回答だ。


 そんな俺に対して、文乃が出した回答は……、

「いいよ……」

 興奮で脳味噌が爆発してしまいそうな言葉だった。


「でも……自分で見せるの恥ずかしいから、真喜雄が、下から覗いてね」

 

 な……なにぃぃぃぃっ!


 この答えは俺の予想を遥かに超えていた。

 文乃はベッドから降りて、スカートの裾を少し広げ「いいよ」と上目遣いで俺に語りかけた。

 もちろん猫撫で声でだ。


 お……幼馴染とはいえ、女の子にここまで言わせておいて、何もしないってのは男として問題ありだ。


 俺は床にはいつくばり、文乃の足下まで近づいた。

 そして、禁断の空間をみようとした瞬間、俺の視界は真っ暗になった。


 文乃に頭を踏みつけられたのだ。


「ねえ、真喜雄……自分が悪い時は素直に謝ろうね」

 さっきまでの猫撫で声が嘘のように、ドスの聞いた声で、諭されてしまった。


 まあ俺は「……はい」としか答えられなかった。


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