第3話 優しい起こし方

 今朝は……、

真喜雄まきお起きろ!」

「ぐほっ!」

 ダイブで起こされた。


「痛ってえ——よ、文乃あやの! 死ぬか思ったわ!」

「え——っ! 真喜雄ったら大袈裟ね」

 大袈裟でも何でもない……こんなの下手したら内臓破裂するまである。


「いや、まじで……もう少し優しく起こしてくれよ」

「なに贅沢言ってんのよ真喜雄、こんなにも可愛い幼馴染に起こしてもらえるなんて、贅沢なことなんだよ?」

 まあ、それは確かに。


 なんか妙に納得したところで、身体を起こそうとすると、両肩を押されてもう一度ベッドに戻された。

 

 簡単にいうと、馬乗りになって押し倒された恰好だ。それにしても……顔が近い! 


「ねえ真喜雄……後学のために教えてもらえる? 優しく起こすってどうやるの?」

 ま……また猫撫で声。


「ねえ、教えて真喜雄? 教えてくれたら……明日からリクエストに答えられるかもしれないよ?」


 な……なに。


 それは、俺の提示する優しい起こし方が、もし文乃の琴線にふれたら、その幸福を俺にプレゼントしてくれるってことだよな?


 こ……これは……チャ——————ンス!

 そして、非常に悩ましい。


 そりゃ、本当はおっぱいでビンタされたいとか、キスで窒息させてくれだとか……色々願望はある。

 だが、俺は文乃に振られた身。

 未来の無い、ただの幼馴染だ。

 そんな願望……ただの幼馴染が望むと、まるで身体だけが目的みたいじゃないか。

 俺は文乃が好きだった。

 むしろ、今でも好きだ。

 そんな文乃だからこそ、そんな目で見たく無い。

 ここは『体を揺すって起こしてくれればいいよ』って答えるのが無難であり最適解なのだ。


 ていうか、文乃……胸デカくなったな。


 ああ……その「おっぱいに顔をうずめてみたい」なあ。

 まあ、そんなこと口が避けても言えないけどね。


「……え」

 

 うん? 『え』ってなに『え』って。

 なんか文乃の様子がおかしくなった。


「ま……真喜雄……あんた、私のおっぱいに顔を埋めたいの?」


 なんで知ってんね————————ん!


 いや、今思ったけどさ……なんで?

 も……もしかして俺、心の声……漏れてた?


「どうなの真喜雄?」

 ど、ど、ど、ど、どうなのって……聞かれても。

 でも、ここは考えるまでも無いな。

 素直に『はい』だ。

 こんなビッグチャンス、今後2度と訪れないかもしれない。チャンスは目の前にある時に掴むものだ!


「う……うん」

 言った……言ってやったぞ!


「そうやって、起こしてほしいの?」

 起こしてほしい?

 あ、そうだ……そんな話だったな。


「うん」

「じゃぁ、彼氏が出来たらそうするね」

 満面の笑みを浮かべる文乃。


 彼氏……彼氏か……そうだよな……そんなこと、彼氏にしかできないよな。


 俺が泣きそうになっていると、

「ていっ!」

 文乃が俺の頭に抱きついてきて、必然的に文乃の胸に顔を埋める格好になった。

 

 こ……これは……なんて幸せなんだ!

 柔らかい!

 柔らかいぞ!

 

 しかも文乃の良い匂いがする。

 こんなの寝起きにされたら、そのまま昇天してしまうかも知れない。

 ……ずっとこのままでいたい!


 しかし、ひとつ切実な問題があった。

 幸福感は半端ない。

 これは幸せの到達点のひとつである事に間違いはない。

 だが……息が!

 息ができない。


 俺は我慢した。

 限界まで我慢した。

 その結果……、


「ねえ、真喜雄? 何ぐったりしてるの? 真喜雄! ねえ、起きて真喜雄!」


 俺は本当に昇天寸前まで行ってしまった。

 文乃に思いっきり往復ビンタをされて何とかこっち側に帰ってこれたが、本当に危なかった。


 翌朝、文乃は普通に布団をひっぺがすだけで起こしてくれた。


 少し期待していたが、寝ている時は危険だと、流石の文乃もおっぱいの危険性を悟ったようだ。


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