第254話 常軌を逸した武器

 だんだんと頭がこんがらがってきた俺の問いに答えたのは、ジガルガである。


「数少ない情報から、我が調査と推察、そして検証を重ねた結果、『調和を保つ者』の刺客は、『常軌を逸した武器を持ち、秩序を乱す傾向のある者』の前に現れることが分かった。……ここまで言えば、もうだいたい分かるな?」


「いや、分かんねーよ」


「ええい、相変わらず鈍い奴だ。『秩序を乱す傾向にあるもの』とは、つまりぬしのことだ」


「えっ、俺が? なんで?」


「自覚しておらぬのか? ぬしは、自分がこうと思ったら、誰が相手でも、考えなしに行動するだろう? 運命などクソくらえと言った感じでな。……おっと、失礼、汚い言葉を使った。ぬしの言葉遣いがうつってしまったようだ」


「汚い言葉って? クソ?」


「聞き返すんじゃない。話を続けるぞ。ぬしのように、直情的で、後先考えない者は、秩序を保とうとする人々とは、真逆の存在……まさしく、『秩序を乱す傾向にある者』だ。しかも、ぬしは一度、ピジャンという『調和を保つ者』に目をつけられている。そんなぬしが我――つまり、『常軌を逸した武器』と行動を共にしていれば、すぐにでも、『調和を保つ者』の刺客がやって来るかもしれない。だから、我はぬしと離れようと思うのだ」


 俺は、大きく首を捻る。


「ちょっと待てよ。俺が『秩序を乱す傾向にある者』っていうのは、若干不本意だけど、まあ分かったよ。でも、なんでお前が、『常軌を逸した武器』なんだ? だいたい、今までだって一緒にいたのに、刺客なんて来なかったじゃん」


「分からぬのか? 人造魔獣は、魔術と科学の粋を集めた、究極の生体兵器――『常軌を逸した武器』なのだ。そして、ぬしの肉体を借りることでしか行動できなかった一ヶ月前の状況と、現在はまったく違う。我はご主人様の手によって、こうして新たに肉体を授かり、自由に動けるようになった。そんな我が、要注意人物のぬしと共にいれば、いつ刺客が襲ってきてもおかしくはない」


「ま、まあ、理屈としては分かるけどさ。刺客なんて、ぶっ飛ばしてやりゃいいじゃん。俺も随分強くなったし、何よりお前、新しいボディを手に入れたんだから、アーニャと同じくらい強いんだろ? 誰が来ても、二人で戦えば大丈夫だって」


 ジガルガは、小さくため息を吐いた。


「分かっておらぬな。単純な武力以外でも、抹消対象を殺す方法などいくらでもある。寝込みを襲う、毒を盛る、火をつけて建物ごと燃やしてしまう等々……連中が本気なら、もっとえげつない方法を使ってくるかもしれない」

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