第255話 外界への興味
静かに沈黙していたアーニャが、我慢しきれず、会話に割り込む。
「そーゆーことだね。調和を保つ者が、ご主人様を殺すのを諦めたのは、思念体同然のご主人様には、物理的なあらゆる暴力が通用しないからさ。ナナリーちゃんなら、僕の頭で思いつくだけでも、ざっと152通りの方法で暗殺できるよ」
「さらっと怖いこと言うんじゃねえ」
「そのアーニャの言う通りだ。……だから、我はぬしと距離を置くのだ。本音を言えば少々寂しいが、これがぬしのためだ。それに……」
ジガルガは、小さな頭で上空を見上げる。不思議なことに、いつの間にか俺たちは全員、リングの上ではなく、いつもの古道具屋の店内に戻っていた(流石に200人の観客人造魔獣はいなかったが)。
天井付近の、大きな天窓を通して空を見つめながら、ジガルガは、静かに、静かに言葉を続けた。
「こうして、肉体を手にした今、一度、世界を旅して、人々の営みを自分の目で見てみたいのだ。データベースで色々なことを検索するうちに、外界に対して、興味が湧いてな。……長い間、狭い本の中で暮らしてきたのだ、それくらいしても、バチは当たらぬだろう?」
彼女の瞳には、抑えきれない好奇心が湧き上がっていた。
そうか。
それが、今のお前のやりたいことなんだな。
初めて会ったとき、存在する意味を見失っていたお前が、自分の意志でやりたいことを見つけたのなら、それを、俺が止められるはずもない。
笑顔で、送り出してやろう。
それが友達ってもんだ。
「……分かったよ。俺としても、お前と別れるのは寂しいが、お前がしたいことを、止める気はないよ。心の向くまま、好きな所に行ってこいよ。楽しい旅になるといいな」
「うむ、色々、世話になったな」
「そりゃこっちの台詞だよ。……まあ、お前、俺よりずっと強いし、頭もいいから、余計なお世話かもしれないけど、道中、気をつけてな。知らないおじさんについて行ったりするんじゃないぞ?」
「本当に余計なお世話だ。我を子どもあつかいするな。……だが、まあ、一応留意しておこう」
「うん……」
そこで一度、言葉が切れる。
黙ってると、なんだかしんみりしてしまうので、俺はすぐに言葉を続けた。
「移動手段は、馬でも使うのか? でも、おこちゃまサイズのお前の身長じゃ、馬に乗れないよな」
「だから、我を子どもあつかいするなと言っているだろう。心配無用だ。見ろ」
見ろ、と言われるまでもなく、俺は目を丸くして、ジガルガを見た。
彼女の小さな体が、1メートルほど、ふわりと浮き上がったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます