第253話 データベース
「その前に、一度、ハッキリ言っておこうと思っていたのだが、せっかくだから今言うよ。私のことをクソ呼ばわりするのはそろそろやめてくれたまえ、ぶっきらぼうなのもきみの魅力の一つだが、それにしたって口が悪すぎる」
「ふん、だって俺、お前の名前知らないんだもん。クソ呼ばわりされたくなきゃ、ちゃんと自己紹介しろよな」
「ん? してなかったかな?」
「してないよ、一回も」
「そうか。それは失礼した。私は、グリアルドという。グリアルド・ゼルベリオスだ」
「ゼルベリオス? そりゃたしか、燃えちまったジガルガのボディの名前じゃなかったか?」
「ゼルベリオスとは、我が一族の姓だ。父は、人間への復讐心から、一族の怨念を込めて、最強の人造魔獣の体に、姓を名として刻んだのだろう」
「へえ、そうなの」
興味なさげにそう言ってから、俺は言葉を続ける。
「んじゃ、話を戻すぞ。ジガルガが俺の身を心配したら、なんで、距離を置かなきゃいけないんだ?」
「それについては、私より、ジガルガ本人の口からきいた方が、きみも納得すだろう。ジガルガ、話してあげなさい」
グリアルドに促され、頷き、ジガルガは語り始めた。
「我はこの一ヶ月、店の外に出る以外は、自由な行動を許可されていたので、ご主人様の作ったデータベースを検索し、以前、ぬしに聞かれた、『調和を保つ者』と『調和を乱す者』の関係――つまり、世界の
「データベース?」
そう言えば、アーニャの奴も、前にデータベースがどうとか、言ってた気がするな。
「簡単に言えば、ご主人様が、長い時をかけて作り上げた、世界のほぼあらゆる情報が掲載されいる、百科事典のようなものだ」
「へえ、そりゃすげえ」
「だが、データベースの中にも、ほとんど情報はなかった」
「なんだよ、思ったより使えねえな」
俺の物言いが気に入らなかったのか、店主が口をはさんでくる。
「仕方ないんだよ。以前――1800年ほど前だったかな? 『調和を保つ者』とやらが私に接触を図ってきたことがあるのだが、上から目線で気に入らない輩だったので、情報収集する間もなく、八つ裂きにしてしまったのだよ。当時は私も若かったので、少し短気だったからね」
「短気すぎるだろ……」
「その後、本格的に、私を危険人物――『調和を乱す者』だと判断した『調和を保つ者』たちは、何度か刺客を送ってきたが、私は彼らをことごとく退けた。すると、私の力が、思った以上に強大だと悟った『調和を保つ者』たちは、それ以上私に干渉してこなくなったのだ」
「ふぅん、仲間を殺されたってのに、随分あっさりと引き下がるもんだな」
拍子抜けしたように俺が言うと、それまで黙っていたアーニャが、とてとてと駆け寄り、会話に入って来た。生来のおしゃべり好きだ。ずっと話したくて仕方なかったのだろう。
アーニャは意気揚々と、語りだす。
「これ以上戦ってご主人様を刺激するより、静観する方が得だって踏んだんだろうね。ご主人様は、基本的に争いを好まないし、自分から世界をどうこうしようって人じゃないから。……ふふっ、つまり、『調和を保つ者』は、寝ているライオンを、そのまま寝かせておこうって思ったわけさ」
「なるほどね。……んで、その『調和を保つ者』が、ジガルガと俺が一緒にいられないことに、どうかかわってくるんだよ? いい加減、結論をスパッと言ってくれないか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます