第213話 テレポーター

 人格がちょっとアレって……

 このイングリッドにそう言われるような人格って、どんなのだよ……


 だがこれは、神の救いだと、俺は思った。

 ジガルガを助けるため、もっと強くならなければいけない俺にとって、今もっとも必要なのは、最高の指導者だ。


 俺は、イングリッドに今日あったことを説明し、そのヴィルガ・レインズの指導を受けたいと懇願した。


 案の定、3000年生きている店主のことや、人造魔獣ジガルガとアーニャのことは、イングリッドの理解力を超えていたようで、終始ちんぷんかんぷんな表情だったが、話が終わると、彼女は拳を握り締めて叫んだ。


「なんだかよくわからんが、憎い奴がいて、強くなって、そいつを殴り飛ばしたいんだな!」


「うん、お前のその、物事をシンプルにとらえる性格、かなり好きだぞ」


「好きだなんて……そんな……照れる。おっと、話が脱線したな。そういうことなら、すぐお師匠のところに行こう」


「ありがてえ。そのヴィルガさんって、どこに住んでるんだ? 近くなのか?」


「以前もらった手紙によると、スーリア地方よりさらに南の南の南の果てで暮らしているらしいから、ここからだと、最高の馬で、連日連夜駆け続けたとしても、半年はかかるな」


「半年って、お前、俺の話聞いてた? 再試合は一か月後なんだぞ」


「分かっているよ。馬なら半年でも、『テレポーター』を使って移動すれば一瞬だ。戸締りをして、早速出発しよう」


 そう言って立ち上がったイングリッドに促され、俺は、急ごしらえで修理した鍵を閉めると(殴ればすぐに壊れてしまいそうだが、盗まれるような貴重品もないし、まあいいだろう)、町の中央にあるらしい『テレポーター』なる場所に移動することにした。


 道中、駆け足で走りながら、イングリッドに問う。


「なあ、勢いで出てきちゃったけど、テレポーターってなに?」


「えっ!? 知らない!? テレポーターを!?」


「そ、そんなにビックリしなくてもいいだろ……」


「この、常識のない、馬鹿な私でも知っているテレポーターを、知らないのか!? 何故!?」


「……もういい、二度と聞かない」


「すまない。ちょっとからかってみただけだ。すねないでくれ。テレポーターとは、転送魔法が使える高位の魔術師が常駐している建物のことで、だいたい役所の近くにある。私は、よく旅をするから知っているが、あまり他の地方に行かない者なら、知らなくても無理はない」


「じゃあ、大げさに騒がないでくれよ……。えっと、つまり、そのテレポーターってのは、転送魔法を使って、遠く離れた場所に移動させてもらえる施設って思っておけばいいのかな?」


 イングリッドは、大きく頷いた。


「ある程度の規模がある都市同士なら、ほとんどの場合テレポーターで繋がっているから、どれだけ離れていても、一瞬で移動することができるんだ。人だけでなく、物流にも使われたりする優れものなんだぞ」


「へえ、そんな便利なものがあるとはな。でも、その割には、あんまり周りに使ってる人がいないような気がするな。『テレポーターでどこそこに行ってきたんだよ~』なんていう奴、知り合いに一人もいないし」


「それはそうだろう。テレポーターの利用には、しっかりとした身分証明と、良馬十頭分程度の大金が必要になる。犯罪者や得体の知れない連中に利用されては、社会秩序の混乱を招きかねないからな。基本的には、一般市民が頻繁に使えるものではないんだ」


 身分証明と大金。

 どちらも、俺にとっては大きなハードルだ。


 元魔物の身では、経歴をまともに話すこともできないし、ブロップ一家壊滅の件で、そこそこ礼金を貰ったとはいえ、とてもじゃないが、良い馬を十頭も買えるほどではない。

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