第204話 今こそ好機
しかしまあ、蹴りを受けられることは計算の内だ。
これで、奴の注意は下半身に向いている。
今こそ好機。
俺の使える技の中で、もっとも素早い攻撃、『達人のジャブ』を、アーニャの顔面に打ち込む。
よし。
完璧なタイミングだ。
これなら当たる。
俺の勝ちだ。
時間はまだ三十秒も経ってないだろう。
店主さんよ。短時間で終わる、つまらないゲームになって悪かったな。
そうほくそ笑んだ俺の腹に、爆弾でも爆発したかのような衝撃が伝わってきた。
「かはっ!?」
思わず息が詰まり、二~三歩、後退する。
それから、今何をされたのか気がついた。
蹴られたのだ。
足を真っすぐ、直線的に突き出してくる『前蹴り』
アーニャは、俺のジャブが顔面に届く前に、前蹴りで俺の腹を蹴り、距離を取ったのだ。
「いやあ、危ない危ない。今のローキックからジャブのコンビネーションは、なかなか良かったよ。後手に回ると、次々と連続攻撃がきそうだったから、いったん前蹴りで距離を取らせてもらったよ」
俺は、戦慄していた。
今の前蹴り。
つい先程例えた通り、まさに爆弾同然の威力だ。
金剛堅竜の鎧を身に着けていなければ、硬化能力で防御したとしても、確実に死んでいただろう。
だが、この鎧さえあれば、耐えられる。
図々しいと笑われたが、最強の装備をねだってよかった。
次に攻撃を食らう際は、意識して硬化能力を使えば、よりダメージを小さくすることができるはずだ。
ビビるな。
アーニャの奴も、予想以上に鋭い俺の攻撃に驚いたから、距離を取ったのだ。
連続でガンガン攻撃していけば、一発くらいは、絶対に顔面に当てることができる。
俺は、雄たけびを上げ、再びアーニャに突進した。
左ジャブ。
右ストレート。
膝蹴り。
ローキック。
後ろ回し蹴り。
それから、飛び上がっての膝蹴り。
一気に、六つの技を連続して浴びせかける。
あえて自画自賛させてもらうが、どれも達人クラスの、素晴らしい攻撃だ。
だが、当たらない。
最初こそ驚いていたアーニャも、今では慣れたのか、余裕を持って回避しているように見える。
何故だ?
攻撃の勢いは、どんどん上がっている。
先制攻撃でアーニャを驚かせたローキックやジャブより、ずっと鋭い一撃ばかりなのに、難なくかわされてしまう。
困惑する俺の耳に、ジガルガの声が響いてきた。
「ぬしの攻めは、単調で、読みやすい。その猫耳娘は、技を見てから反応しているのではなく、目線の流れや、小さな関節の動きを見て、攻撃の先読みをしてかわしているのだ。……いかに達人の技を身に着けていても、使い方がまだまだ未熟。簡単に攻撃を当てることはできないだろう」
……なるほど、そういうことか。
『達人の技を身に着けても、それを使いこなすには長い時間がかかる』といったジガルガの言葉が、今になって身に染みる。
しかし、困ったぞ。
俺の小さな挙動から、次に来る技を予測してかわすことができるなら、どんな攻撃も、あたるはずがない。
どうりゃいいんだ。
俺は、いったん攻撃をやめ、助けを求めるようにジガルガを見た。
その気持ちが伝わったのか、ジガルガはゆっくりと口を開く。
「我ならば、猫耳娘がかわそうとしている方向を、読むことができる。今までの回避行動を観察して、彼女の動きの癖は、だいたい覚えたからな。それをテレパシーでぬしに伝え、タイミングよく攻撃を放てば、まあ、顔面に一撃当てるくらいのことはできるだろう。だがそれは……」
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