第196話 ドラマチックな出会い
「なんだと?」
「きみは、ジガルガの入っていた魔導書を燃やし、その灰を吸い込んだから、ジガルガに取りつかれたと思っているようだが、それは違う。私が、特殊な術法を用いて、ジガルガをきみに取りつかせたんだ。これは、ジガルガ本人も知らぬことだがね」
何言ってんだこいつ?
こいつが、なんで俺に付きまとうのかを聞き出したかったのだが、話がこんがらがってきやがった。
ジガルガを、俺にあげただって?
「おい、意味わかんねーぞ。あんたの言ってたこと、まるっきり嘘だったってことか? あんたのご先祖のこととかも?」
「いやいや、全部じゃないよ。九割は本当さ。嘘なのは、『私自身ではジガルガの入った本を処分できない』って言った部分だけだよ。そういう設定にして、きみにジガルガをあげたほうが、二人の出会いがドラマチックになると思ってね」
「ますます意味わからん。俺とジガルガをドラマチックに引き合わせて、あんたに何の得があるんだ?」
「ちゃんとした理由があるんだよ。きっと、きみには理解できないだろうが」
「だろうな。あんたみたいな頭のおかしい野郎の考えなんて、理解したくもねえ」
「ふふふ、酷い言われようだな。でもね、私の頭がおかしいのも、無理はないんだよ。私は、父――ジガルガの創造主に、不死の魔法をかけられ、死にたいと思っても死ねず、これまで、かれこれ3000年は生きてきたんだ。少しくらい狂っていても仕方ないと思わないか?」
「よくもまあ、そんなデタラメを……この世には、寿命を延ばす魔法すらないんだ。不死の魔法なんて、あるわけねーだろ」
店主の妄言にあきれ果てている俺の頭に、ジガルガの声が聞こえてくる。
『いや、それが、あるんだよ。古代の禁術で、肉体を消し、思念だけを永久にこの世にとどめておく、呪いに近い方法だがな』
「マジか。……だけど、そんな、永遠に生きられる魔法があるなら、創造主様とやらが、自分に使えばいいじゃん」
そんな俺の問いに答えたのは、ジガルガではなく、店主だった。
「この禁術はね、対象が幼児の時に使わなければ効果がないんだ。……私はね、人生の中で、もっとも好奇心溢れる、見るもの聞くもの、なんでも楽しい時に、父によって、こんな、
「……多少はね。でも、俺はあんたが嫌いだ」
「それは残念だ。さて、話を元に戻そうか。私がきみに、ジガルガを引き合わせた理由だったね」
「ああ」
「簡単に言うと、私の趣味を、より豊かなものにするためだよ」
「趣味?」
「そうだ。私はね、人間観察が趣味なんだよ。これまで、3000年間、色々な遊びをやってきたが、人間観察に勝る楽しみはない。しかし最近は、あまり興味をそそる人間がいなくてね。ほとほと退屈していたんだ。そこに突然、君が現れた。平静を
「けっ。面白い人間が見たいなら、コメディアンでも追っかけてろよ」
「一時期、コメディにはまったこともあるが、ああいうのはだいたいパターンが同じでね。1500年前に卒業したよ」
「そうかい。ワンパターンのコメディでも、俺の日常よりは面白いと思うけどね」
チッチッチッチッという音が、あちらこちらから響き渡る。
数瞬、何の音か分からなかったが、少し考えて、店主が舌を鳴らしている音だと理解できた。
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