第195話 同じ気配
何か、声をかけてやるべきだろうか。
いや、でも、本人が何度も『問題ない』って言ってるんだから、余計なお世話かなぁ……
そう悩んでいると、硬く緊張した声で、ジガルガが短く言った。
『落ち着いて聞け』
その、あまりにも真剣なトーンに、俺は、返事ができなかった。
ジガルガは、言葉を続ける。
『同じ気配がする』
何が?
何と何が、同じ気配なんだ?
俺がそう思ったのと同時に、ジガルガは疑問に答えた。
『ぬしの記憶で見た、あのアーニャと、この店の主人。とてもよく似たオーラの持ち主だ。外の幻術のせいで、中に入るまで気がつかなかったが、間違いない。創造主様の子孫と、邪鬼眼の術者――アーニャは、何か関係がある』
俺は、つばを飲み込んだ。
冗談だろと言い返したかったが、ジガルガはこんな冗談を言わない。
一度深呼吸し、気持ちを整える。
そして、考える前に、俺の体は動いていた。
店主の前につかつかと歩いていき、単刀直入に、聞く。
「あんたが、アーニャの『ご主人様』か?」
本当なら、言い逃れ出来ないように、もっと持って回った問いかけをした方が、良かったのかもしれない。
頭の中で、ジガルガが何やら喚いている。
すまん。
まさか、いきなりこんなふうに、俺が聞きに行くとは思わなかったんだろうな。
だが、駆け引きなんざクソくらえだった。
この店主が、さんざん俺の周りを嗅ぎまわっていた野郎なら、今すぐここで、一発ぶん殴ってやる。
頭にあるのは、その想いだけだった。
店主は、笑った。
いや、目の前にあるのは、浮き上がった黒ローブだけなので、もちろん顔は見えないのだが、俺には、奴が笑ったように感じたのだ。
俺は、吠えた。
「なんか面白いかよ。この覗き野郎」
今度は、ハッキリ笑い声が聞こえた。
店主は、俺を見て笑っているのだ。
もう間違いないだろう。
『あんたが、アーニャの『ご主人様』か?』と問われて、人違いなら、こんな態度は見せないはずだ。
俺は、鋭く息を吐いて、黒ローブの中心めがけて、渾身のストレートパンチを打ちこんだ。
ばふっ。
布を叩いただけの、ゆるい手ごたえ。
なんだこいつ、見た目通り、実体がないのか?
自分の拳を見つめて思案する俺に語り掛けるように、周囲から声が響いてくる。
「私がアーニャの主人だと、どうしてわかったのかな? ぜひ、教えてもらいたい」
ボソボソと呟くようだった喋り方が、よどみのないものに変わっているが、これは、あの店主の声だ。
とうとう認めやがった。
やっぱり、こいつがアーニャの『ご主人様』だったのか。
こんな奴に、答えてやる義理もないのだが、俺は叫ぶように、若干誇らしげに言う。
「お前が捨てたジガルガのおかげさ! 今、あいつは俺と半分意識を同化させていて、それで、あんたとアーニャが、どうやら関係しているようだってことに、気づいてくれたんだ!」
この店主に、ジガルガが凄い奴だってことを、教えてやりたかった。
素直に感心したような店主の声が、響き渡る。
「ほう。意識の半同化。それはすごい。互いに相手のことを信頼していないと、まずできない芸当だ。短い期間で、随分と仲良くなったようだね。やはり、君にジガルガをあげたのは正解だった」
「あげただって? 聞き間違いかな。あんたは、ジガルガの入った本を処分してくれって、俺に頼んだんだぜ」
「ふふふ、あれは嘘だよ。『先祖に託された危険な人造魔獣の処理に悩む、謎めいた古道具屋の店主』……なかなかの名演技だっただろう? 本当は最初から、きみにジガルガをあげるつもりだったんだ」
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