第189話 激闘の記録
「お説教されなくても、身に染みてるよ」
アーニャにチョークスリーパーで絞められた首を
ジガルガは、俺の枕元にすとんと腰を落とし、
「奴が危険であることを認識したのなら、なおさらゴロゴロしてる場合ではないぞ」
「なんで?」
「わからぬのか? 殺す気はなかったとはいえ、『ご主人様』とやらは、
「つまり、どゆこと?」
「奴らのぬしに対する干渉態度が、新しいステップに入ったということだ。次は、より露骨で、危険な干渉の仕方をしてくる可能性が高い。何の対策もせずにボーッとしていると、死ぬとまでは言わぬが、場合によっては、深刻な大怪我をするかもしれんぞ」
俺は、身震いした。
しかし、対策と言われても、あのアーニャが、真剣に襲いかかって来るとなれば、俺がどう抵抗しようと、すべては無駄な努力なのではないか?
自分でも情けないが、随分と弱気になっている。
でも、無理もないのよ。
人間の姿になってから、これまで色々ピンチはあったけど、なんだかんだ言って、切り抜けてきた。
俺には、自分の手で降りかかる火の粉を払う力があり、どんな災いにも負けないと、自信をつけていた。
その自信が、ちびっこの姿になったアーニャに、なすすべもなくやられた敗北感で、消え去ってしまったのだ。
こういうときは、どうすればいいんだっけ。
確か、過去の成功体験を思い出すと良いと、何かの雑誌で読んだことがある。
よし、やってみるか。
俺が、いかにして強敵たちとの戦いに勝利してきたか。
その激闘の記録を、振り返ってみるとしよう。
グレートデーモンに襲われた時は……あっ、酒場のマスターに助けてもらったんだった。
初めての冒険で、頭にボウガンの矢が刺さりそうになった時は……あっ、タルカスに助けてもらったんだった。
イングリッドとの決闘では……うん、ジガルガがいなきゃ死んでたな。
スーリアでの、ピジャンとの戦いは……あの忌々しいアーニャがいなきゃ、戦うまでもなく死んでいた。
……なんてこった。
冷静に考えると、俺、自分の力だけで危険を回避したことなんて、ないんじゃないか?
駄目だ。
ますます落ち込んできた。
布団に潜り込んで寝ちゃおう……まだ昼だけど。
そんなウジウジとした俺の様子を見て、ジガルガが深く嘆息し、言う。
「まったく。気が強く、喧嘩っ早いくせに、ちょっとしたきっかけでションボリと落ち込んでしまう。よく吠える小型犬のようだな、ぬしは」
「メンタル的に弱ってるときに、そういうこと言われると傷つくんだけど……」
「ふむ。挑発してやる気を出させようと思ったのだが、これは重症だな。ただ戦いに負けたというだけでは、こうはなるまい。アーニャとやらに対する好意を、
「別にあんな奴好きじゃないんですけど……」
「ならベッドから出ろ。再び奴と戦わなければならなくなった時のために、我が稽古をつけてやる。喜べ、あらゆる達人の技を習得した我から、直接指導を受けられるということは、世界中の格闘家が、どれだけ望んでも得ることのできない
「えぇー……でも、今そんな気分じゃ……」
「出なければ、このまま枕元で、ぬしのことを小型犬呼ばわりし続けるぞ」
「それはやだ……」
本当に嫌だったので、俺はしぶしぶベッドから出ると、ジガルガに促され、例の町はずれの広場に向かった。
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