第181話 勝負をつけるチャンス
俺のふとももからふくらはぎ、くるぶしから足首に至るまでが、全体にまんべんなく軟質化して、まるでタコの足のようにうねり、バッチィインッと、強烈な平手打ちに似た音を立て、ジョンの股間に叩きつけられた。
「おぅふっ!?」
ジョンが、ひどく情けない悲鳴を上げる。
あり得ない反撃を食らって、さぞ驚いたことだろう。
万力のようだった奴のベア・ハッグが、急激に力を失っていく。
身をよじってジョンの腕の中から脱出しながら、俺はふと思った。
もしも、股間の部分まで『改造手術』とやらを受け、超合金なりなんなりで強化されていたら、今の必死の反撃でも、大したダメージは与えられず、俺はカッとなりやすいジョンの怒りを買って、殺されていたかもしれない。
最悪の事態を想像して血の気が引くが、とにもかくにも、足による銀の鞭は成功したのだ。よしとしよう。
ジョンは地面に膝をつき、獣のような唸り声をあげ、股間を押さえていた。
顔はこっちを向いており、脂汗をだらだらと垂らしながらも、もの凄い目で俺を睨んでいる。
ジョンは人並み外れたタフネスの持ち主だ。
あと数秒もすれば、起き上がって来るだろう。
勝負をつけるチャンスは、今しかない。
俺は短く息を吐き、今度は腕を軟質化させ、白銀の刃を放った。
狙う場所は、頭。
といっても、馬鹿正直に顔面をぶん殴ろうってわけじゃない。
なんせ、頭蓋骨に超合金が入ってるんだからな。
まあ、いかに超合金といえど、何度も攻撃すれば脆くなるだろうから、先程と同じ場所を正確に叩けば、超合金を破壊して、大ダメージを与えることができるかもしれないが、そんな不確かな方法を取らなくても、もっと確実に奴の意識を奪う方法がある。
それは、『顎先を狙う』ことだ。
いつぞやのイングリッドとの決闘で、ジガルガがそうしたように、俺はジョンの顎を、斜め上から斜め下に擦るように、白銀の刃で薙ぎ払った。
ジュンッという音がして、ジョンの頭が大きく揺さぶられる。
よし、成功だ。
こんなふうに、顎の先端へ衝撃を受けると、人間の脳はぷるっぷるに揺れて、脳震盪を起こす。
つまり、意識を失うのだ。
ジョンは一瞬、呆けたような表情になり、それからゆっくりと、うつ伏せに倒れた。
巨体が地面にぶつかると、その場に落ちていたホコリがふわっと舞い、少しカビ臭い。
俺は、大きく安堵の息を吐いた。
はあぁ……
上手くいって良かった。
こういう、小さな
ベロー兄弟の時は、さすが双子と言うべきか、まったく同じ高さに大きな顎が二つ並んでたので、むしろ狙いをつけやすかった。
だが、ジョンの場合は、身長が高いこともあり、鞭の動きで下から正確に顎を打ち抜くのは、どうにもやりづらかったのだ。
先程、顎を狙わずに眉間を攻撃したのは、そういう理由である。
せっかくの白銀の刃も、空振りしては、どうしようもないからな。
もっと言うなら、眉間だって、特別意識して狙ったわけじゃない。
白銀の刃の破壊力なら、頭のどこに当たっても倒すことができるだろうと思っていたので、頭部全体に照準を合わせ、それがたまたま眉間に当たっただけだ。
おっと、忘れちゃいけない。
今のうちに、拘束拘束っと。
俺は、脳震盪を起こしたまま、小さく痙攣を続けるジョンに拘束の魔法をかけ、もう一度、安堵の溜息を漏らす。
「やった……ちょいと苦労したが、なんとか全員、倒すことができたぞ……」
ブロップ一家のアジトにやって来てから、時間的にはまだ三十分も経ってないはずだが、猛烈に疲れた。
俺は、先程ジョンが座っていた椅子に腰を下ろすと、俯いて深く息を吸い、三度目の溜息を吐いた。
そして、顔を上げる。
さて、帰るか。
いつまでもこんなところに長居する必要はない。
後で役人に連絡して、拘束状態にしてあるジョン達を捕まえてもらわないとな。
その場合、捕縛に協力したということで、ちょっとは謝礼金とか貰えたりするんだろうか?
いや、待てよ。
そもそもが、冒険者ギルドに討伐依頼がきてたんだから、ギルドから直接報酬が貰えるはずだ。
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