第175話 ベロー兄弟
俺は、興味なさげに言う。
「わるいけど、悪党の名前になんて興味ないね。それより、危ないな。扉を開けたのがあんたらの仲間だったら、今のダブルパンチでノックアウトされてたんじゃないの?」
ベロー兄弟は、またしても同時に笑い、今度は二人そろって、まったく同じ言葉を吐いた。
「「俺たちゃよ、戦いの雰囲気や、人の気配ってやつが分かるのよ。音はしなかったが、アジトの入り口で仲間が二人やられたのは分かった。だから敵が、次は中に入って襲ってくると思って、こうして奇襲したわけさ。ま、かわされてしまったけどね」」
戦いの雰囲気や人の気配が分かる、か。
そりゃすごい。
今さっき飛んできた、息の合ったダブルパンチも、かなりの迫力だった。
どうやらこいつらは、先程倒した二人の男より、はるかに格上のようだ。
どうする。
いきなり銀の鞭を使って、早めに勝負を決めるか?
いや、駄目だな。
焦るな。
こいつら、けっこう強そうだからな。
何のフェイントもなく使っても、きっとかわされてしまうだろう。
俺は、一旦逃げることにした。
正確には、逃げる『ふり』だが。
どっちの男でもいい。
大喜びで追ってきたら、その油断した顔面に、銀の鞭を叩き込んでやる。
……しかし、どちらの男も、俺を追ってはこなかった。
俺は再び奴らに向き直り、声を張り上げる。
「どうした? このまま行っちまうぞ? 仲間をぶっ飛ばした俺を逃がしちゃ、メンツが立たないんじゃないか?」
ベロー兄弟は、同時に言う。
「「行きたければどうぞ。仲間たちは、別に死んだわけじゃねえ。ほっといたらくたばるような傷でもねえ。気配でわかる。休んでりゃ、すぐに元気になるさ。俺たちゃしがない盗賊団だ、メンツなんかどうでもいいし、別にあんたにも興味はない。どうせ、冒険者か何かだろう? それより、とっとと朝飯の続きを食いたいんだよ」」
言われて、廃砦の中を見ると、確かに朝食中だったようだ。テーブルに食べかけのパンと干し肉がある。
……俺より朝飯の方が優先順位が上かよ。
俺のことを、まったく脅威だと認識してないみたいだな。
別段、こいつらに恨みがあるわけではないが、これほど軽く見られると、少々ムッとする。
俺は、再び奴らに向かって突進した。
ベロー兄弟は、何も言わなかった。
だがその表情は、どんな言葉よりも雄弁に、彼らの心情を物語っていた。
『おいおい姉ちゃん、真正面から戦って、俺たち二人相手に勝てると思ってるのか』と。
そうさ。
勝てる方法があるんだよ。
覚えたての技だけど、昨日たっぷり練習したから、使いどころはバッチリ頭に入っている。
あんたらは、自分たちのことを、『ここらじゃちょっとは名が知られてる』と言っていたが、俺はあんたらのことを知らない。
同じように、あんたらも、俺のことを知らないだろう?
それが、命とりさ。
きた。
先程と同じ、鋭いダブルパンチ。
俺は両腕を上げて、ブロックの姿勢を取る。
ベロー兄弟は、笑った。
俺の細腕では、自分たちの剛腕によるパンチを防ぐことなどできないと思っているのだろう。
違うんだなあ、それが。
奴らの攻撃が当たる瞬間、俺は両方の腕を、硬化させた。
「「ぐあっ!?」」
ベロー兄弟は、二人同時に苦痛の呻きを上げた。
無理もない。
金属のように硬くなった俺の腕に、思い切り拳を打ち付けたのだ。
場合によっては、骨が折れたかもしれない。
しかし、彼らを哀れに思うほどの余裕は、俺にはなかった。
こいつらはなかなかの
ここで勝負を決めないと。
長期戦になったら、二対一では不利である。
俺はベロー兄弟がひるんだ一瞬のスキを見逃さず、右腕を軟質化し、鞭の動きで拳を放つ。
ちょうど、二人の顎を同時に打ち抜くような軌道でだ。
当たる瞬間に、拳を硬化させる。
白銀の刃――
こいつらは、外で倒した細い男とは違い、頑強そうな太い首と、たくましい体をしているので、死にはしないだろう。
強烈な手ごたえが、ズガズガッと続く。
俺の目の前で、ベロー兄弟は倒れていた。
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