第124話 最も効果的なダメージ

「あのねー、詳しい原理の説明は難しいんだけどー、私のテレポーテーションはね、厳密には、瞬間移動してるんじゃなくて、移動対象を原子レベルにまで一度分解して、離れた場所に再構成してるだけなのー。その際、一時的にオーラの性質が変わっちゃうから、変化した性質が元に戻るまで、魔法も呪術も使えなくなっちゃうんだー」


 んん?

 何だこの野郎。

 アホみたいな喋り方のくせに、突然難しいこと言いやがって。


 俺の脳みそではよく理解できんが、一つ気になったのは、オーラの性質が変わっちゃうってところだ。

 だからイングリッドは、魔装コユリエのオーラ探知能力を使っても、こいつの存在を確認できず、どこか遠くに行ってしまったと思ったんだな。


 あれ、ちょっと待てよ。

 こいつ、もっと気になること、言ってたな。

 テレポーテーションしたら、変化した性質が元に戻るまで、魔法も呪術も使えなくなるって?


 嘘だろ?

 俺は試しに、魔法で指先に火をともそうとしてみる。

 ……駄目だ。出ない。

 魔法が、使えない。


 やばいぞ。

 俺の攻撃魔法が使えないのも痛いが、ピジャン自身が弱点だと告白した、レニエルの神聖魔法が使えないのは致命的だ。

 慌てて、俺はレニエルに声をかける。


「おい、レニエルっ! あれっ……? レニエル? どこだ?」


 レニエルの姿はどこにもなく、返事もない。

 代わりに答えたのは、ピジャンである。


「あの子とソゥラは置いてきたよー。光の魔法、使われるの嫌だったからねー。殺しておいてって命令したから、今頃、ソゥラに始末されてるんじゃないー?」

「こ、この野郎。ふざけた真似しやがって……! うぐっ……!?」


 急激に、心臓のあたりに痛みが走った。

 苦しい。

 なんだこれ?


 痛い。すごく痛い。

 呼吸も、荒い。

 畜生、どうしちまったんだ?

 まるで、体を半分に裂かれたような痛みだ。


 半分……?

 ああ、そうか。

 レニエルと、離れちまったからだ。


 クソッ!

 最近、すっかり忘れていたが、俺とあいつは、『分魂の法』とやらで、一つの魂を共有しているんだった。

 長い距離をはなれるとまずいとは聞いていたが、こんなことになるのか。


 まずい。

 これは本当に、まずいぞ。

 今はまだ、痛くて苦しいだけだが、このままだと、戦う前に俺とレニエルは死んでしまうだろう。


 ピジャンは、俺たちの魂の事情を知って、テレポートしたわけではないだろうが、結果的に、最も効果的なダメージを、俺とレニエルに与えることとなった。

 苦しそうに悶える俺を、不思議なものでも見るように眺め、ピジャンは言う。


「あれあれー? どうしたのー? お腹でも痛いのー? ねー、そんなにフラフラしてないでさー、早く戦おうよー」


 無茶言うな。

 もう、立ってるのもやっとだ。

 畜生、畜生!


 こんなところで、死んじまうのか。

 俺も、レニエルも。

 誰か、助けてくれ。


 この状況を何とかできそうな知恵を持った救世主は、俺の知る限り、ジガルガだけだ。

 頼む、ジガルガ、起きてくれ。

 頼む。

 頼む。


「頼むよ……」


 掠れた慟哭が、自然と喉から漏れた。

 その時、頭の中に、直接声が響く。


『困ってるみたいだね。助けてあげよっか?』

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