第123話 臨戦態勢
俺は、臨戦態勢を取った。
「おー? なになにー? やる気ー? いいよー、相手になってあげるー。どうせ、全部教えた後は、お姉ちゃんたちを、排除するつもりだったしねー。ふふっ、それにしてもさー、ふふふふっ」
「なんだよ。何がおかしい」
「いやねー。私に、勝てるつもりなのかなーって思って。あの剣士のお姉ちゃんならともかく、足が速いだけの銀色のお姉ちゃんじゃ、どうやったって私には勝てないと思うけどなー」
「なめんなよ。俺には、秘密兵器があるんだ」
「へぇー、やだあー、こわーい」
ピジャンは、少しも怖くなさそうに、震えるように体をくねくねと揺する。
……このガキ、馬鹿にしやがって。
俺の言う秘密兵器とは、まあ、つまるところ、ジガルガのことだ。
イングリッドと決闘したときのように、ジガルガと体を入れ替えれば、こんな奴、敵じゃない。
さあ、頼む、ジガルガ、起きてくれ。
寝てる場合じゃないんだ。
五分でいいから、起きて戦ってくれ。
おーい。
ジガルガー。
朝だよー。
おーい。
……うん。
そりゃ、起きんわな。
さっき、腹いっぱい食って、寝たばかりだもんな。
知ってた。
さて、こうなった以上、レニエルと協力して戦うしかないか。
先ほどの光の魔法を見るに、プリーストとしてかなり成長しているようだから、充分な戦力になるはずだ。
彼の方を見て目配せすると、レニエルも共闘を理解しているようで、決意を込めた瞳で、小さく頷いた。
そこに、ピジャンの間の抜けた声が響く。
「えー、まさか、二対一で、襲いかかってくるのー? ずるくないー?」
「悪いね。一対一じゃ、勝てそうにないからさ。いくぞ、レニエル」
「はい!」
返事と同時に、レニエルの両手が光に包まれた。
聖なるエネルギーを集約して撃ち出す、聖光弾の呪文、その準備段階である。
ピジャンの、顔色が変わった。
「ふーん、その子、光っぽい魔法使うんだー。正直言って私、そーいうの、苦手なんだよねー。……ねえソゥラ、銀色のお姉ちゃんは私がやるから、この金髪の子、殺しておいて。お願いねー」
次の瞬間だった。
目の前の景色が、一瞬で変わったのは。
なんだ?
いったい、何が起こったんだ?
辺りを見回す。
夜だというのに、ぼんやりと明るい。
何故かは、すぐわかった。
周囲の岩々が、光っているのだ。
恐らく、天然の『ピジャンの光石』なのだろう。
その神秘的な美しい輝きに、自分の置かれた状況も忘れ、しばらく見入っていると、例の間の抜けた声が飛んでくる。
「ここ、どこだかわかるー? 今日の昼下がりにー、私とお姉ちゃんたちが出会った場所だよー」
言われて、初めて気がついた。
確かにここは、ピジャンと初めて出会った、すり鉢状の窪地だ。
馬鹿な。
燃やされた集落からここまでは、歩いて一時間はかかる距離だ。
それを一瞬で……
あっ、そうか。
「テレポートか。あのデカブツを飛ばした時みたいに、瞬間移動したんだな」
「そ。テレポーテーションは、私の得意技なのー。一回使うと、しばらく使えなくなるのが難点だけどねー」
「へえ、見たところ、魔力を大量消費したようには感じないけどな。それなのに、連続で使えないなんて、妙だな」
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