第122話 駒

「私『たち』ってことは、他にもあんたみたいなのがいるのか?」

「まあねー。気づいてないだけで、お姉ちゃんも、どこかで会ったりしてるかもよー」


 うーむ……思いがけず、世界のことわりの一端を知ってしまった。

 とりあえず、『調和を保つ者』については、分かった。


「それじゃ、二つ目の質問だ。正直、こっちの方が、納得のいく答えを聞きたくて仕方がない」


「へー、なになにー」


「どうして、ソゥラちゃんに、この集落の人たちを殺させたんだ? あんたが自分でやるなり、大トカゲ共にやらせるなり、色々方法はあったろ?」


「あー、そーいうことー。あのねー、確認したかったのー」


「何を?」


「ソゥラが、私の言うこと、素直に聞くこまかどうかをー」


「駒?」


「うんー。最初はねー、シャーマンのウーフに直接命令して、通商してる人たちを殺したりー、外の地方から来る商人をバラバラにしちゃったりしようと思ったんだけどねー、あの人、純粋でー、優しすぎてー、敬愛するピジャン神様にそんな命令をされたら、ショックで信仰がなくなりかねないから、諦めたのー」


 確かに。

 ウーフは、ピジャンを慈愛溢れる神だと崇拝している。

 その神が、愛の欠片かけらもない冷酷な指示を出して来たら、一気に信仰が嫌悪に変わってもおかしくない。


「でもー、やっぱり手駒になる人間はいたほうが便利だからー、ウーフよりもさらに信仰心の高い、巫女のソゥラに目を付けて、通商をしてる集落の監視役にしたのー。でもでもー、なんだか集落の人やイハーデンの商人と、楽しそうに話をしてたからー、『んー、この子、大丈夫かなー。監視役の使命、忘れてないかなー』って、思ってー」


「ピ、ピジャン様、何度も申し上げていますが、私はそんなつもりは……」


「駄目駄目ー、私の目はごまかせないよー。若い商人から、イハーデンのお洋服をプレゼントされて、嬉しそうにしてたじゃないー。だからねー、ソゥラの私に対する信仰心を、試したかったのー。結果、ソゥラは見事にやってくれたねー。通商のために滞在してた、その若い商人も、集落の人も、全員殺せたもんねー、えらいねー」


 嬉しそうにカラカラと笑うピジャンとは対照的に、それまで比較的平静な表情を保っていたソゥラの顔が、痛々しいほどに歪み、深く沈んだものとなった。


 その反応で彼女が、服をプレゼントしてくれたという若い商人に対して、どんな感情を持っていたか、容易に推察することができた。


 俺の心が、チリチリと、種火が弾けるような怒りで焦げついていく。


「この野郎……自分の言いなりになるか確認したくて、ソゥラちゃんに人殺しをさせたってのか」


「まあー、身もふたもない言い方をすると、そーだねー」


「かわいそうだとは、思わなかったのか」


「んー、まー、多少はねー。でもでもー、本当に嫌ならー、別に断ってくれてもよかったんだしー」


「信仰心の高い巫女が、あんたの指示を断れるはずがない、それを分かってて、命令したんだろ」


「ばれたー? 巫女としての信仰心と、人としての良心の狭間で揺れるソゥラの姿は、なかなか心を打つものがあったよー。これからはなるべく嫌な命令は出さないようにするから、そんなに怒らないでよー、あははー」


 許せねえ。

『調和を保つ者』だか何だか知らないが、人の運命をもてあそびやがって。

 ぶっとばしてやる。

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