第108話 神の声
「どういうことだ?」
「私は、あなた方と別れた後、お告げを聞いたのです」
「お告げ?」
そこで、ウーフはまた、嬉しそうに笑った。
「ええ。あんなことは、生まれて初めてでした。起きている状態で、ピジャン神の声を聞くことができたのです。……ピジャン神はおっしゃいました。『これから、集落の皆から見える位置に、巨大な竜が出現する。それは私の怒りの具現だ。民の畏怖心を煽り、祈りを捧げよ。私を崇めよ。
「神様からお告げがあったから、あんなに皆の恐怖を煽ってたっていうのか?」
「そういうことです」
「でも、それにしたって、怖がらせすぎだろ。やつれるほど嘆いて、真っ青になってる人もたくさんいたぞ、集落の皆を苦しめることは、あんたにとっても本意じゃないはずだ」
ウーフは瞳を閉じ、一度深く息を吸い、それを吐いて、静かに口を開く。
「……そうですね。ピジャン神の言いつけとはいえ、少し、人々の恐怖心を煽り過ぎたかもしれません。しかし、私はこれを、良い機会だと思っているんですよ」
「良い機会? どういう意味だ?」
「近頃、スーリアの民は、昔ながらの素朴な生活と、神に祈りを捧げる習慣を忘れ、明らかにピジャン神に対する信仰心が落ちてきていました。アドロロのように、イハーデンと通商する者まで出てくる始末です。嘆かわしいことに、我が妹、ソゥラもその一人です。あの子は最近、アドロロの集落に入り浸り、噂では、イハーデンの若い商人と、親密になっていたそうです」
「そうなのか? 意外だな。俺たちには、イハーデン人はすぐ出て行けって言ってたのに」
「最近のあの子が何を考えているのか、私にはよくわかりません。私以上に、ピジャン神への信仰は深く、他地方民との交流を厳格に拒否していたかと思えば、イハーデンと通商をしているアドロロに、近頃急にすり寄ったり、かと思えば今日、イハーデンからやって来たあなたたちに、無礼な態度を取ったり、どうにも、情緒不安定で……昔はあんなに、素直だったのに……」
眉間にしわを寄せ、頭を左右に振りながらそう言うウーフの姿は、深い苦慮に満ちていた。
可愛い妹との関係がこじれてしまっていることに、心から悩んでいるようだ。
「おっと、失礼。妹の話は、今は関係ありませんでしたね。……ええっと、あなたの名は、確か、ナナリーさんでしたね」
「ああ」
「……ナナリーさん。あなたは、先程の話に出てきた、白い少女とは、何者だと思いますか?」
こりゃ難しい質問だ。
正直、あの子は得体が知れなすぎて、適当なあてずっぽうですら、答えることができず、俺は黙り込んでしまう。
しかし、ウーフは最初から、俺が何か答えることは期待していなかったらしく、静かに自分の意見を述べた。
「あなたたちから、白い少女の話を聞いた時、思いました。その子はピジャン神の化身だと」
「えぇっ、そりゃ、少し発想が突飛すぎるんじゃ……」
ウーフは軽く微笑んで、彼の背後にある小さな祭壇から、何かの像を取り出した。それは輝くような鱗に包まれた、白い蛇の彫像だった。
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