第104話 きたきたきたきた

 元魔物だった俺が言うのもなんだが、分かりあうことは難しそうだ。

 調和を保つためだのなんだの、わけわからんこと言ってるもんな。

 得体の知れないところもあるし、ここで退治してしまうのが一番だろう。


 とはいえ、先程の急襲から察するに、攻撃をかわすくらいなら俺にもできるが、俺だけの力で倒すには、少々強すぎる相手だ。


 結果、情けなくも、俺はイングリッドに視線をやり、『後は頼む』と言うように、軽く頷いた。

 イングリッドもそれに呼応して頷き、今まさに、白い少女に斬りかかろうとした刹那、少女は叫んだ。


「あー! きたきたきたきた! できた! 完成! お姉ちゃんたち、それじゃあねー!」


 それから、シルバーメタルゼリーの俺が舌を巻くほどの素早さで、白い少女は俺たちの前から消え去った。


 何だったんだ、いったい……

 困惑する俺の耳に、再び叫び声が響く。

 今度は、レニエルの声だ。


「ナナリーさん、イングリッドさん、あれを見てください!」


 彼が指さす方向を、俺とイングリッドは、ほとんど同時に見た。


 それは、先程まで、12匹の大トカゲが、ぼーっと突っ立って、呆けていた場所だ。俺は、どうしてレニエルが叫びをあげたのか、すぐに理解した。


 誰だって思わず叫ぶわ、こんなもん。

 大トカゲは、もういなかった。

 その代わり、もっと存在感のある奴が、一匹だけ、いた。


 ドラゴンだ。


 翼はなく、牙も小さい。

 一般的なドラゴンのイメージより、大きなトカゲに近い外見である。

 では、なぜ俺が瞬時にドラゴンだと判断したかと言うと、でかいのだ。

 もう、めちゃくちゃにでかいのだ。


 二本足で立ち上がったその姿は、ざっと見て、7~8階建てビルくらいの高さがある。……ということは、大体20メートルくらいか?


 でかい。

 でかすぎる。

 誰もが知る、国民的宇宙戦争ロボットアニメの白い主役ロボットでも18メートルだぞ。


 さっき、あの白い少女は、大トカゲ共のことを、『くっつく途中だから攻撃しないで』と言っていたが、もしや、これがその『くっつく』ってことなのか?


 くっつくどころか、巨大化しとるやんけ。


 予想もしていなかった事態に、あんぐりと口を開けたままの俺。

 呆然と立ち尽くすレニエル。

 そんな中、イングリッドだけは、行動していた。


 具体的に言うと、剣を上段に構え、ドラゴンに突進していたのだ。

 先手必勝とばかりに、斬りつけるつもりらしい。


 いや、そりゃ無理だろ!

 サイズが違いすぎる!

 俺は、反射的に「よせ!」と叫んだ。


 だが、イングリッドは俺の予想を超えて素早く、すでにドラゴンの足元に到達し、くるぶしに向かって思い切り大剣を振り下ろす。


 ガギィッ。

 まるで、鋼鉄の柱に刃をぶつけたような、硬い音がした。


 艶消しの黒を、ベッタベタに塗りたくったような、おぞましいドラゴンの皮膚。

 どうやらそいつは、装甲板並みの防御力のようだ。


 剣が通用する相手ではないと一太刀で悟ったイングリッドは、それ以上無駄に斬りつけることはなく、飛びのいてこちらに戻ってくる。


「凄いな。10メートルクラスのドラゴンなら、今までに3~4匹は退治したことがあるのだが、これほどのサイズで、しかも刃が通らないほど硬い皮膚なのは初めてだ。ふふふ、こいつは厄介だぞ」


 笑っとる場合か。

 どうやら、久方ぶりの強敵との対峙に、剣士の血が騒いでいるようだが、刃も通らぬ相手を、どう倒すというのか。

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