第42話 燃えよ人造魔獣

「さてと、荷物は部屋に運んだし、この本、早速燃やしちまおうか」

「そうですね。燃やし終わった後、灰の始末もしなければいけませんし、明るいうちにやってしまいましょう」


 宿に帰って来た俺とレニエルは、宿の主人の許可を得て、庭で焚き火を起こした。焼却炉みたいなものがあれば完璧だったのだが、まあ、これでも充分だろう。


 一応、本に封じられているという人造魔獣にお悔やみを申し上げる。


「お前さんも封印されたまま燃やされるのは不本意だろうが、これも運命だ、恨まないでくれよな」


 パンパンと二度手を叩き、一礼すると、俺は魔導書を焚き火の中に投げ入れる。


 古道具屋で発生したような、黒い雷光のバリアがまた出ないかと少しだけ警戒していたが、特に何も起こらず、魔導書は普通の本と同じように、焚き火の中で燃えていった。


「これでよし、と」

「でも、完全に燃え尽きるまでには、まだ時間がかかりそうですね」

「だな。……ただ待ってるのも暇だし、せっかくだから焼き芋でも作るか」

「えぇっ……魔導書を燃やした焚き火でそんなことして、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫大丈夫、案外魔法的なスパイスが効いて美味しくなるかも」


 俺は、部屋に行って、余っていた芋をいくつか持ってくると、木の棒に刺して、焚き火に近づける。


 しばらく待つと、ほっこりとした焼き芋が出来上がった。

 表面を軽くはたき、皮を剥いて、一口かぶりつく。


「おっ、なかなかいけるぞ。最近は煮た芋ばっかり食ってたから、焼いた芋は新鮮だ。ほら、お前も食ってみろよ」

「い、いえ、僕はやっぱり、遠慮しておきます……なんだか、燃やされた人造魔獣の怨念がこもってそうで……」

「嫌なこと言うんじゃない。まったく、こんなに美味しいのに……」


 その後も何度か、レニエルにも食べてみるよう促したが、どうにも気が進まないようで、結局、焼き芋は俺一人で全部食べることになった。



 その日の夜。

 特にすることもなかったので、早めにベッドに入り、うとうとしていると、背後から妙な声が聞こえてきた。


「人類滅ぼしたいいぃぃ~……」


 ビクリとして体を起こし、後ろのベッドで寝ているレニエルに声をかける。


「おい、今何か言ったか?」


 返事はない。

 一応、耳を澄ませてみる。

 聞こえるのは、すやすやというレニエルの穏やかな寝息だけだ。


 ……なんか変な声が聞こえたと思ったが、気のせいか。


 あるいは、俺自身が、いつの間にか浅い眠りに入っていて、夢を見ていたかだな。だいたい、レニエルが『人類滅ぼしたいいぃぃ~……』なんて、言うわけないもんな。


 寝よ寝よ。

 俺は、再びベッドに身を横たえ、瞳を閉じる。


「人類滅ぼしたいいぃぃ~……」


 まただ。

 今度は、さっきよりハッキリ聞こえた。

 何故だろう。


 思わず、ゴクリと唾を飲み込む。


 分かったからだ。

 声がハッキリ聞こえた理由が。


 後ろ。

 俺の、すぐ後ろにいるのだ。

 声の主が。


 やばい。

 なにこれ。

 幽霊?


 背筋に、悪寒が走る。

 魔王軍にいた時に、亡霊系のモンスターは何度も見たことがあるが、こんな、宿の中で、背後に幽霊がいるなど、初めての経験だ。

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