第41話 ニーアーマー
俺は、思わず吹き出した。
「こんなぺらぺらな布でアーマーを名乗っていいなら、俺が今はいてる靴下はアンクルアーマーだよ」
「でも、この布、魔力を感じます。ほら、触ってみてください」
言われて、ニーアーマーらしき布を、軽く擦ってみる。
本当だ。触ってみると、なかなか強力な魔力が布に宿っているのが、ハッキリ分かる。
試しに俺は、布を裂いてみようとした。
ぐっ……
ぐぐっ……
駄目だ。
薄手の布地なのに、まるで革製品のように頑丈である。
「凄いぞ、これ。防御の魔法でもかかってるのか、かなり耐久力がある」
「じゃあ、やっぱりこれがニーアーマーなんですね」」
「アーマーっていうより、ニーソックスにしか見えないけどな」
「とにかく、付属品があってホッとしました」
「そうだな。注意書きも、最後まで読んじゃおう。えーっと、『鎧とニーアーマーの間の部分に、肌が露出する部分ができるが、そこを塞いではいけない。なぜなら、魔力の換気口となるからである』……うん、これでおしまいっと」
……魔力の換気口って表現がよくわからんが、『鎧とニーアーマーの間の、肌が露出する部分』っていうのは、いわゆる太ももの絶対領域ってやつだな。つまり、そこをズボンとかで塞いじゃ駄目だってことか。
不可解な注意書きに、レニエルが首を捻る。
「どういうことでしょうか?」
「さあね。魔装には、不思議なルールがある物も多いから。とにかく、下半身はニーアーマーと靴だけにしておけば、問題ないってことだ。そのニーアーマー、かなり頑丈みたいだし、他の装備品なんかいらないから、別に大丈夫だろう」
「それはまあ、そうですね……」
「さ、帰ろうぜ。宿に戻ったら、庭で例の本、とっとと燃やしちまおう」
どこか腑に落ちない感じのレニエルを促して、俺たちは宿へ帰るために再び歩き出す。
てくてく。
てくてく。
今日もいい天気だ。
五分程、無言で進んだあたりで、レニエルがボソッと言った。
「あの……下半身にニーアーマーと靴しか身に着けてはいけないということは、僕はズボン無しで、あのミニスカートみたいな鎧を着なければいけないということでしょうか」
「ん? ああ、まあ、そうなるな」
「返品してきましょう」
くるりと踵を返して、古道具屋に戻ろうとするレニエルの肩を、ガシッと掴む。
「待て待て待て待て。こんな良い鎧、そうそう手に入るもんじゃない。ミニスカートくらいなんだ。腕利きの冒険者になるには、それなりの装備品を揃えなきゃいけないんだぞ。もう二度と、こんな業物、お目にかかる機会はないかもしれない。ちょっとのことくらい、我慢しなきゃ。だろ?」
「うっ……確かに……それは、その通りですね……」
「な? どうせ、すぐ慣れるって、それに……」
「それに、なんですか?」
「いや、なんでもない。ほら、早く帰ろ帰ろ」
「あっ、もう、ナナリーさん、押さないでくださいっ」
俺は、レニエルの気が変わらないうちに、小さな肩を後ろからぐいぐいと押して、道を進ませた。
いけないいけない。
生まれつきの軽口が、また余計なことを言うところだった。
『それに、お前、きっとミニスカートが似合うと思うぞ』
なんて言ったら、レニエルの奴、意地でも返品しに行っただろうからな。
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