第43話 三つの選択肢

 どうしよう。

 しばし考える。

 よし。

 俺の取り得る選択肢は、大きく分けて三つだ。


 まず一つ目。

 何も聞かなかったことにして、このまま寝てしまう。

 ……いやいやいやいや、そりゃ無理だろ。

 後ろに幽霊がいるのに、気にしないで寝れるほど、さすがの俺も図太くはない。


 二つ目。

 大声で叫んでレニエルを起こし、いかにもプリーストっぽい神聖な魔法で幽霊をなんとかしてもらう。

 ……これもなあ、ちょっとなあ。

 除霊っていったらプリーストの出番だけど、女みたいに喚いて(女なんだけど)寝ているレニエルを起こして助けてもらうのも、なんかカッコ悪いよなあ。


 三つ目。

 振り返って幽霊と目があったりしたら怖いので、このまま背後を魔法で攻撃する。

 ……グッドアイディア!

 声で大体の位置はわかるし、これだけ近くにいれば、幽霊を直接見なくても、100%命中する。


 よし、善は急げだ。今すぐやろう。

 俺は小声で、閃光系の呪文の詠唱を始めた。

 その背に、三度みたび不気味な声が掛けられる。


「人類滅ぼしたいいぃぃ~……」

「やかましい。今から俺がお前を滅ぼしてやる」


 あっ、やべっ。

 鬱陶しいから、つい呪文の詠唱をやめて、文句を言ってしまった。

 こういうのって、幽霊と口をきくと、大体ろくなことにならないのが怪談話のセオリーだよな。


 静かな室内に、しばしの沈黙が流れる。

 気を取り直して、もう一度呪文の詠唱を始めようと唇を開きかけた時、おずおずとした声で、沈黙は破られた。


「そなた……我の声が聞こえるのか……?」


 うわあぁぁ……幽霊が話しかけてきた。

 勘弁してよもう。

 そんなふうに聞かれたら、攻撃しづらいじゃん。

 問答無用でやっつけちまおうと思ってたのに……


「我と会話ができるのか……? 答えよ……」


 うぅ……まだ話しかけてくる。

 なんだか、さっきよりも切実な感じだ。

 どうしたものか、少しだけ迷ったが、俺は結局、幽霊とコンタクトしてみることにした。


「はぁ、まあ、一応……」

「ほぉ、それはよい。振り返って、こちらにおもてを見せよ」


 なんだこいつ、なんか偉そうだな……

 しかし、今更攻撃するのもなんなので、ゆっくりと身を起こし、振り返り始める。

 あーあ、結局、幽霊のご尊顔と対面することになっちまったな。


 まあ、俺も元魔物だ。

 モンスターは見慣れてる。

 青白い亡者だろうが、ガイコツだろうが、なんでも来いだ。


 あっ、でもゾンビ系を近くで見るのは嫌だな。

 そんなことを思っているうちに、振り返り終わった。

 目の前にいたのは、俺の手のひらとだいたい同じくらいの、小さな女の子だった。


「……妖精?」


 自然と、彼女の第一印象が、口から出た。

 長い黒髪をツインテールに結わえ、奇妙な衣装を着たその姿は、過去に何度か見たことのある、小さな妖精族を思わせる外見だったからだ。


「我は妖精ではない。……まあ、創造主様は、我の外見を作る際の参考に、妖精を用いたそうだから、ぬしがそう思うのも無理はないがの」

「じゃあきみ、いったいなんなの?」

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