第27話 やりたいこと
俺は、改めてレニエルの顔をよく観察する。
枝毛一つない、肩まで伸びた金色の髪。
加工品かと思うほど長い睫毛の下には、ブルーサファイアそっくりの大きな瞳が輝いている。
形の良い鼻は、子供らしい愛らしさをちょこんと主張し、唇はリップを塗ったようにピンク色だ。
うん。
やっぱり女だ、こいつ。
でも、『お前やっぱり女だろ。男だって言うなら、証拠に○○○見せてみろ』って言ったら、怒るだろうなあ。
まあ、せっかく仲良くやっているのだし、わざわざ波風立てるようなことしなくてもいいか。
レニエルが男でも女でも、別に俺の態度は変わらないしな。
一人そう納得する俺を見て、レニエルが不思議そうに首を傾げた。
「どうしました、ナナリーさん? 僕の顔に、何かついてます?」
「いや、ただ、その、随分と、冒険者の仕事に積極的なんだなって思って」
レニエルは、ニコッと笑う
「ええ。今日の冒険は、本当に胸が躍りました。僕は魔法で光を作っていただけでしたが、ナナリーさんとタルカスさんの活躍を見て、思いましたよ。僕もこんなふうに、逞しい冒険者になりたいって」
「俺の活躍は大したもんじゃないが、まあ、あのタルカスの強さは確かに凄かったよな。……って、おい、今お前、冒険者になりたいって言ったけど。それって、今みたいに一時しのぎで金を稼ぐためじゃなくて、本格的に冒険者になりたいってことか?」
まるでタルカスの真似をするように、レニエルは静かに力強く頷いた。
「ナナリーさん、前に話していたでしょう? 僕の人生は始まったばかりだから、何かやりたいことはないのかって。その、『やりたいこと』が、今日見つかったんです。僕は雲のように自由で、どんな力にも屈しない、本物の冒険者になりたいんです!」
むふーと息を荒げて宣誓するレニエルの瞳は、少女というより、憧れがいっぱい詰まった少年のものだ。
ああ~……
なんといいますか……
あるよな、こういうこと。
大まじめで、それまで抑圧された生活をしてたやつが、ちょっとアウトローな暮らしを体験すると、人生観が変わって、道を踏み外すっていうか……
まあ、レニエルの気持ちも分からんでもない。
子供の頃から修道院に預けられ、坊さんみたいな毎日を送っていたのが、見たことも会ったこともない兄貴とやらの思惑で、今度は聖騎士にされ、挙句の果てに父親の非道な命令で死ぬところだったんだもんな。
……何もかも、自分以外の、大きな力によって定められた人生。
それが、今までのレニエルの人生だったんだ。
自分で考え、行動し、道を切り開く冒険者に憧れるもの、無理もないか。
しかし、こいつが冒険者になりたいというのなら、分魂の法とやらで命を分け合った俺も、自然と冒険者になることになる。
やれやれ、せっかく魔王軍を辞めたのだし、のんびり田舎暮らしでもしたかったのだが。
俺は、小さくため息を吐いた。
まあ、別にいいんだけどね。
田舎暮らしってやつも、いざやってみたら、案外退屈なだけかもしれないしな。
いざやってみたらと言えば、冒険者も、今日実際にやってみると、思ったより悪くなかった。
俺にも多少は、少年的な冒険心が残っているらしい。
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