第26話 なんで喋ってくれないの?
それにしても、どうして俺たちに直接言わないんだ? 今の発言を聞く限り、ひよっことは口をききたくないというような、傲慢なタイプとも思えない。俺は、思ったことを、そのままタルカスに尋ねた。
「報酬のことはまあ、大変ありがたいんだけど、タルカスさん、なんで俺たちに直接言ってくれないんだ?」
タルカスは、瞑想するように深く目をつぶり、再びマチュアに耳打ちした。
だ、だから、なんで直接言わないんだよ……
それから、踵を返して、彼はギルドを出て行った。
取り残された俺とレニエルに、マチュアが言う。
「タルカスさんは、『すまない。別件の依頼があるから、私はそろそろ行かなければならない。今日はお疲れ様』と言ってました」
「いや、だから、なんであんたに耳打ちするんだ? 俺たちにひとこと言えばいいじゃん。『別件があるからこれで』ってさ」
「いやー、それが、ちょっと難しいんですよ」
「なんで?」
マチュアは、少しだけ嘲るような笑みを浮かべ、言った。
「タルカスさん、もの凄い奥手で、初対面の女の人とは、まともに喋れないんです。私とも、なんとか会話できるようになるまで、五年かかりましたからね」
「なんとまあ……そういうことだったのか。しかし、いくら奥手っていってもさ、一言も喋ってくれなかったぞ。『ああ』とか『うん』くらい、言ってくれてもいいのに」
「無理ないですよ。ナナリーさんとレニエルさん、どっちも可愛いから、照れちゃって、相槌打つのも恥ずかしかったんでしょう。女の子二人とパーティーを組むなんて、初めてだったでしょうしね、あはは」
それまで黙っていたレニエルが、不愉快そうに言った。
「僕は男なんですけど」
マチュアは爆笑した。
気の利いたジョークだと思ったらしい。
「笑うところじゃないんですけど」
そんなこんなで、俺たちの冒険者としての初日は、無事に終わった。
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その日の夜。
500ゴールドも所持金が増えたので、ボロ宿にて、少し豪勢な夕食を取りながら、レニエルと話す。
「いやあ、これだけ金があれば、一週間は働かなくていいよな。このボロ宿も、慣れれば案外悪くないし」
香ばしいチキンを手づかみで頬張りながら言う俺に、レニエルは呆れたような視線を送ってくる。
「何言ってるんですか。冒険者として経験を積むためにも、明日も依頼を受けに行きましょう。お金はいくらあっても困るものではありませんし」
それだけ言い切ると、ナイフとフォークを上手に使って、チキンを細かく分け、小さな口に運ぶレニエル。
男のくせに、ちまちまとした食い方をする奴だ。
……と言うより、こいつ、本当に男なのか?
旅の最中も、このボロ宿に着いてからも、着替えをするときは、こちらに背を向けてコソコソとやっているので、こいつが男である決定的な証拠――つまり、その、あれだよ。男にとって最も大切な『例の部分』は一度も見ていない。
もしかして、本当は女なのに、何か理由があって男と言い張ってるだけなんじゃないのか?
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