第25話 分け合う報酬

 というわけで、どうにかこうにか初の依頼を達成した俺たちは、ギルドに戻ることにした。


 帰路でも、タルカスは無言だった。

 一緒に戦ったことで、少し打ち解けた気がして、俺とレニエルは積極的に話しかけたが、彼はどんな問いに対しても、静かに頷くか、深く目をつぶるだけである。


 魔物相手には、喋ってたのになあ……


 ギルドに到着したのは、お昼を少し過ぎた頃だった。

 マチュアが、満面の笑みで俺たちを出迎える。


「おっ、帰ってきましたね。その様子ですと、依頼はうまくいったみたいですね」

「ああ。タルカスさんがいなきゃ、ちょっとやばかったけどな」


 いや、実を言うと、ちょっとどころじゃない。

 タルカスがいなければ、洞穴を塞いだ巨岩はどかせなかったし、ボウガンの矢だって頭に突き刺さっていた。


 道中だって、タルカスの威圧的な風貌を恐れてか、一匹たりともモンスターが襲ってくるようなことはなかった。

 まったく、タルカス様様である。


「それじゃ早速、報酬をお支払いしますねー。はい、500ゴールド」

「こりゃどうも。……うーん、命がけの冒険の報酬としては、ちょっとわびしいなぁ」

「何言ってんですかー。低級の魔物を駆除したくらいで、そうそう大金は貰えませんよ」

「ごもっともで」


 とはいえ、俺たちが止まっているボロ宿が一泊50ゴールドだから、だいたい半日ほどの働きで、これだけ貰えれば、まあ上等な方かもしれない。


 あっ。

 駄目だ。

 まるまる500ゴールド貰えるわけじゃない。

 タルカスとも、報酬を分け合わないといけないんだ。

 俺は、マチュアに相談した。


「なあ、こういう場合、依頼を手伝ってくれた先輩には、どれくらい金を渡すもんなんだ?」

「そうですねえ。相手にもよりますけど、普通は、半分くらいは渡すべきでしょうね」

「やっぱそうか……。まあ、当然かな」


 相手が、偉そうなだけの無能な先輩ならゴネるところだが、タルカスになら、報酬の半分くらい払っても文句はない。この巨漢の強さには、敬意すら感じている。目線でレニエルに「お前もそれでいいか」と尋ねると、彼は小さく微笑んで頷いた。


「と、いうわけでタルカスさん。はい、半分の250ゴールド。今日は本当に助かったよ、ありがとな」


 報酬の袋からきっちり250ゴールドを取り出し、笑顔と共にタルカスへ差し出す。彼は、常人の倍はありそうな巨大な手をぬぅっと前に出し、250ゴールドを受け取ると、そのまま無言で、俺の持っていた袋の中へ戻した。


 ……どういうつもりだ?

 まさか、250ゴールドじゃ足らない、袋ごと、全部よこせとでも言うつもりじゃないだろうな。


 訝しんでいると、タルカスはマチュアの耳元に口を寄せ、何か囁いている。

 マチュアが、俺とレニエルの顔を順番に見渡して、言う。


「えーっとですね。タルカスさんは、こうおっしゃっています。『私は少し手伝っただけだから、報酬はいらない。同じギルドの仲間同士、これからも頑張ろう』ですって」


 俺は、ぽかんと固まってしまった。

 少し手伝っただけ……って、あんたの働きがなきゃ、今頃どうなってたか分からないってのに、なんとまあ、殊勝なお人だ。

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