「もう経験値狙いの冒険者に追い回されるのに疲れました……」転生したのが狙われすぎるレアモンスターだったので魔王軍を辞めた俺は、女になって新しい人生を歩むことにした。

第24話 つわもの

　俺は、助けを求めるように、後ろのタルカスを見た。

　彼は小さく頷くと、俺たちを下がらせ、一人、片手で大岩を押した。

　ゴロゴロゴロ……

　まるで、ゴルフボールが転がるように、大岩はズレ動き、陽光が差し込んでくる。

　なんて怪力だ。

　この男、グレートデーモンより腕力があるんじゃないのか。

　俺は、感心とも畏怖ともつかぬ面持ちで彼を見て、礼を言うと、外に出た。

　風切り音が聞こえる。

　何かが飛んできた。

　それは、ボウガンの矢だった。

　あと１ｃｍで俺の眉間に突き刺さる――というところで、矢は止まった。

　タルカスが、岩石のように逞しい手で、矢を握り締め、止めてくれたのだ。

「ちぃっ、あと一歩だったのに」

　先ほどの蝙蝠野郎と似たような、嫌な金切り声。

　視線の先に、ボウガンを構えた蝙蝠人間がいた。

　どうやら、駆除すべき『巨大吸血蝙蝠』は、二匹いたらしい。

　奴は、ボウガンに新しい矢を装填し、再びこちらに狙いを定める。

　まずいぞ。

　俺の眉間を正確に狙った腕前から察するに、かなりの狙撃技術の持ち主と見た。

　タルカスの神業でなんとか助かったが、そうそう何度もあんなことができるとは思えない。

　魔法で、奴を攻撃しなくては。

　俺がそう判断したころには、タルカスが動いていた。

　山のような巨体が、体重を感じさせないほど軽やかに動き、一瞬で蝙蝠人間との距離を詰める。

　気がついた頃には、タルカスの拳が、蝙蝠人間の頭を打ち砕いていた。

　本当に、一瞬の出来事だった。

　俺は、ぽかんと口を開け、しばらく固まったのち、タルカスの凄まじい強さに、賛嘆の声を送った。

「つ、つえぇ……。あんた、本当に強いんだな、タルカスさん。」

　しかしタルカスは、俺には目もくれず、近くの林に向かって、言った。

「そこにいるのは分かっている。出てこい」

　初めて聞いたタルカスの声は、彼の見た目通りに、重厚で、凄味のあるものだった。

　なんだ、やっぱり喋れるんじゃないか。

　ガサゴソと音がして、林の中から、タルカスに負けず劣らずの巨体が現れた。

　こいつは……石造りの巨人、ストーンゴーレムだ。

　なるほど。

　話が読めてきた。

　この怪力石造り野郎が、蝙蝠野郎と協力して、俺たちを洞穴に閉じ込めようとしたんだな。

　ストーンゴーレムの無機質な顔には、明らかな動揺が浮かんでいた。

　目の前で、あっという間に蝙蝠野郎の頭蓋を粉砕したタルカスの強さに、戦うべきか、このまま逃げるべきか、迷っているのだろう。

　頭の鈍い奴だ。

　逃げるなら、『出てこい』と言われて林から出る前に、一目散で逃げるべきだ。

　こうして姿を見せた以上、もう戦うしかないのに、いまだに迷っているなんて。

　こういう間抜けには、先制攻撃に限る。

　俺は、静かに呪文を詠唱し、奴の脳天に雷光を落とした。

　ヘタクソなレンガ細工そっくりの頭が、音を立てて砕け散る。

　よし、いい具合に急所に当たったみたいだ。

　ストーンゴーレムの体は、頭のあった部分からピキピキミシミシとひび割れていき、数秒後には、ただの瓦礫の山となって地面に崩れ落ちた。

　俺は、タルカスにＶサインをして、『どうだ、俺だってなかなかやるだろう』というようにアピールする。

　タルカスは、表情一つ変えず、静かに頷いた。