第23話 巨大吸血蝙蝠
声の主は、洞穴の奥から飛翔して現れた。
それは、蝙蝠のような羽が生えた、人型の生物だった。
『蝙蝠のような羽が生えた人間』という表現を使わなかったのは、そいつがどう見ても人間じゃなかったからだ。
顔の半分を覆うような大きな二つの眼球に、病的な紫の肌。
衣服は何も身に着けていない。
モンスターだ。
俺は、やれやれという感じで、肩をすくめた。
「おい、まさか、こいつが巨大吸血蝙蝠か? 表現おかしいぜ。この風貌なら、ギルドの依頼にも、『蝙蝠人間を退治してほしい』って書いておくべきだよな」
「きぇきぇきぇ……蝙蝠人間などと……無粋な呼び方を……俺にはちゃんと名がある、バゴブロ……」
俺は、蝙蝠人間が名乗りを上げている最中に、閃光魔法で攻撃した。
これから駆除する対象の名前なんて、知っても仕方ないからだ。
しかし、蝙蝠人間は、目にもとまらぬ速さでそれをかわすと、洞穴の天井に、逆さに張り付いた。
ちっ。
素早いな。
「きぃきぃきぃ……無礼な女だ……お前は散々にいたぶり、辱めてから、最後に血を吸って殺してやる……」
「遠慮しておくよ」
もう一度、閃光魔法を放つ。
やはり、よけられる。
レニエルも、剣を構えて切りかかるが、これもひらりとかわされる。
ええい、クソ蝙蝠が、ちょろちょろしやがって。
「ふん、逃げ足だけは上等だな。卑屈な蝙蝠野郎らしいぜ」
「きぇきぇきぇ……口の悪い女め……すぐに黙らせてやる」
黙らせてやるの『る』と同時に、蝙蝠人間はこちらに猛然と突進してきた。
ばーか。
わざと挑発して、お前が一目散に向かってくるのを待ってたんだよ。
これなら、狙いが定めやすいからな。
俺は奴が突っ込んでくるのと同じスピードで後退し、閃光魔法を浴びせた。
命中。
蝙蝠人間は、素早さだけは大したものだが、体は脆いようで、あっという間に全身を焼かれ、爛れた喉で断末魔の声を漏らした。
「きぇ……きぇ……き、さま……人間にしては……足が、速すぎる……いったい……何者……」
「なに、大した者じゃない。あんたがさっき言った通り、無礼で口の悪い、ただの女だよ」
俺は、とどめとばかりにもう一発、閃熱魔法を放つ。
それで、蝙蝠人間は完全に塵と化した。
レニエルが、バンザイして喜ぶ。
「やりましたね、ナナリーさん! 凄いです! あの怪物と、ほとんど同じ速さで動くなんて!」
そりゃまあ、元シルバーメタルゼリーだからね。
足の速さには自信があるさ。
なんにせよ、冒険者としての初仕事が無事に片付いてよかった。
とっとと帰ろう。
振り返り、そこで、思い出した。
入り口が、何かでふさがっていることに。
俺たちは、それでも入り口に向かって歩きながら、相談する。
「なあ、どういうことだと思う? さっきの重たい音。あれと同時に、入り口がふさがったんだよな」
「まるで、誰かが岩でも押しているような音でしたね」
「……あの蝙蝠野郎に仲間がいて、俺たちを閉じ込めようとしたのかな」
「あり得ますね。充分注意して進みましょう」
そして、洞穴の入り口にたどり着く。
やはり、大きな岩で、そこは塞がれていた。
俺とレニエル、二人がかりで、思い切り押してみる。
むぅ……
ビクともしない。
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