第22話 初めての冒険

 マチュアに巨大吸血蝙蝠の巣食う洞窟の場所を聞き、俺たちは早速、初の冒険に出発することにした。

 手渡された落書き同然の地図を見ながら、町はずれの山道を進んでいく。


 道中、タルカスはまったくの無言だった。


 堅い空気をほぐすために、何か話しかけようとするが、ただでさえ軽口の多い俺である。下手なことを言って、彼を怒らせでもしたら大変だと、ここは大人しくしておくことにした。


 レニエルは、歩きながらチラチラと、小動物的な動きでタルカスの顔をうかがい、視線が合うと、ビクリと肩をすくませて顔を背ける。


 礼儀正しいレニエルにしては、ちょっぴり失礼な態度だが、気持ちは分からないでもなかった。


 それほどに、タルカスの瞳には、迫力があった。

 気の弱い者なら、睨まれただけで腰が抜けそうなほどの眼力である。


 しかし、今ので会話のとっかかりができた。

 俺は朗らかに笑いながら、言う。


「おいおいレニエル、そんなふうにビクビクしてちゃ、タルカスさんに失礼じゃないか。いやあ、すいませんねタルカスさん。この子、少し気の弱いところがあって」


 タルカスは、ちらりとこちらを見て、軽く頷いた。

 その後は、口を真一文字に結んで、ひたすらに山道を歩き続ける。


 き、気まずい……

 少しは喋ってよ……

『ああ』でも『うん』でもいいから。


 しかし、どうやらこの気まずい時間も、そろそろ終わりそうだ。


 山道の果て、岩壁に洞穴を見つけた。

 ここが、例の巨大吸血蝙蝠の住処だ。


 間違いない。マチュアから貰った地図の印と、バッチリ位置が符合している。最初はヘタクソな地図だと思ったが、なかなかに要点を捉えた、優れもののようだ。


 それにしても、たいして長時間歩いたわけでもないのに、もうついてしまうとは。……なるほど、こんなに町に近い所に巣があったら、駆除の依頼が来るのも当然というものだ。


 俺は、薄暗い洞穴の中を覗き込む。

 入り口付近には、蝙蝠はいないようである。


「さて、どうする? 巨大っていっても、所詮は蝙蝠だし、このまま突入して、一気にやっつけちまうか」

「そうですね。僕の、プリーストの魔法で光を作りますから、それで洞穴を照らせば、死角もなくなりますし」

「よしよし、タルカスさんも、それでいいよな?」


 タルカスは、静かに頷いた。

 先輩の許可も得たので、俺たちは洞穴に足を踏み入れた。


 レニエルが何やら呪文を唱え、彼の体から光が広がっていく。

 入り口から差し込む陽光で、ほんのり岩壁の輪郭が見えるだけだった洞穴が、あっという間に明るく照らされた。


「おっ、明るくなった。便利な魔法だな。これなら、たいまつも必要ない」

「こういう補助的な魔法は、僕の得意分野ですから」


 レニエルは、誇らしげに胸を張った。


 俺たちは、ずんずんと洞穴を進んでいく。

 思ったよりも、ずっと深い穴だ。

 もうかなり歩いているのに、最深部に到達しない。


 その時、背後で、何か重量物を引きずるような、嫌な音がした。

 振り返っても、しばらくは何が起こったのか分からなかった。


 しかし、数秒考えて、気がついた。

 レニエルの光魔法で洞穴全体が明るいので分かりにくいが、入り口から、陽光が入って来ていないのだ。


 まさか、落盤で入り口がふさがってしまったのか?

 いや、先程の音は、落盤という感じではなかった。

 困惑する俺の耳に、不快な金切り声が響いてくる。


「きぇきぇきぇ……今日の餌はご馳走だ。若い女に、子供……美味そう……よだれが出る……」

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