第21話 戦士タルカス

「で、受付さん。今は何か、依頼はないのかい? なるべく初心者向けの、安全なのがいいな」


「えーっと、三つほどありますね。火吹きドラゴンの討伐、巨大吸血蝙蝠の駆除、あとは、山奥に逃げ込んだ殺人鬼の集団を捕らえること、ですね」


「おい、それのどこが安全なんだ。やばそうな案件ばっかりじゃないか」


「でも、冒険者ってそういうもんなんですよ。ほら、『冒険する者』ですから」


 うーむ、やはり、世の中甘くない。

 冒険者として生きる以上は、それなりの危険は覚悟しなければならないようだ。

 俺はレニエルに顔を向け、『どうする?』と視線で問うた。

 レニエルはしばし思案し、思い切って口を開く。


「一番何とかなりそうなのは、巨大吸血蝙蝠の駆除……でしょうか。受付さん、僕たちはこの依頼を受けることにします」


「はーい、分かりました。あっ、ちなみに、私の名前はマチュアっていいます。明日の朝は、元気に『おはようマチュア』って挨拶してくださいね。まあ、巨大吸血蝙蝠にやられて死んじゃうかもしれませんから、元気に挨拶する機会は永遠に訪れないかもしれないですけど。あははっ」


「笑って言うようなことか、縁起でもない」


「いや、でも、冒険者登録初日に、身の程を知らずに強いモンスターと戦って死んじゃう人って多いんですよ。だから最近は、初心者の方にはベテランの冒険者を同行させることにしてるんです」


「へえ、そりゃ心強い。でも見たところ、このギルド、他に人がいないみたいだけど」


「今はまだ朝早いですからね。もう少し待ってれば、誰か来ますよ。あっ、コーヒーでもいかがです?」


「コーヒーか、いいね。……一応聞くけど、金とったりする?」


「まさか、サービスですよ」


「ならもらう」


 そんなこんなで、ごちそうになったコーヒーを飲み干し、受付に置いてあった冒険者の心得本などを読んでいるうちに、玄関をくぐるようにして、巨大な人影がぬぅっと入って来た。


 でかい。

 でかすぎる。

 とんでもない大男だ。

 軽く2メートルはある。


 いかにも修羅場をくぐってきたという感じの、凄味のある顔つき。

 その迫力に、俺とレニエルは、思わず後ずさった。


「あっ、タルカスさん。いいところに来てくれました。こちらのお二人、ナナリーさんと、レニエルさん。新人冒険者です。んで、これから巨大吸血蝙蝠の駆除に向かうんですけど、タルカスさんも同行してくれませんか?」


 ニコニコと笑いかけるマチュアに対し、タルカスは入って来た時と変わらぬ仏頂面である。

 しかし、話は理解したのか、静かに顎を引き、頷いた。


「どうもでーす。あはっ、ナナリーさん、レニエルさん。良かったですね。タルカスさんは、我がギルドでも最強クラスの戦士ですから、とりあえず、今日のところは死ななくて済むと思いますよ」


 この大男が強いのは見ただけでわかる。

 シルバーメタルゼリーだった頃に遭遇していたなら、恐怖しか感じないだろうが、今の状況では頼もしい限りだ。


 俺は、軽く頭を下げて、挨拶をした。隣のレニエルもそれに倣う。


「俺は、ナナリー。よろしくな、タルカスさん」

「レニエル・クランです。足手まといにならないよう、精一杯務めます」


 タルカスは、俺たちを一瞥すると、先程と同じように小さく頷いた。


 ……この男、喋れないのか?

 それとも、並外れて寡黙な奴なのか。

 まあ、おしゃべり野郎よりはずっとマシだと思っておくことにするか。

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