第20話 理想的な仕事
「そ、そうですか。本当に、お疲れさまでした……」
レニエルは申し訳なさそうに頭を下げた後、しばらく黙り込んで、意を決したように言う。
「あの、ナナリーさん。一人でいる間に、考えていたんですけど、『分魂の法』の事情もありますし、僕たち、あまり離れずにいた方がいいと思うんです」
「それはまあ、そうだろうが、子連れでできる仕事なんてあんまりないんじゃないか?」
「いえ、それがあるんです。酒場よりは労働時間が短く、比較的自由で、僕のプリーストの能力も活かせる仕事が」
明日も酔っ払いにケツを触られるのかとうんざりしていた俺にとって、それは救いの啓示だった。一も二もなく、喜色満面でレニエルに飛びつく。
「そりゃ理想的だ。どんな仕事だよ? 明日になったら、すぐに面接か何かを受けに行こうぜ」
「特に面接とかはないと思います。だって、冒険者ですから。ギルドに登録すれば、すぐに依頼を受けられますよ」
ちっ。
なんだ。
冒険者か。
喜んで損した。
露骨に嫌そうな俺の顔を見て、レニエルは小首をかしげる。
「あの、ナナリーさん、どうかしましたか?」
「せっかくのアイディア、悪いんだけどさ。俺、冒険者って嫌いなんだよね。色々嫌な思い出があってな」
冒険者――
その言葉を聞くだけで、シルバーメタルゼリーだった頃、目の色を変えた経験値狙いの冒険者たちに追い回された暗い記憶がよみがえる。
この俺が、あんなケダモノ同然の冒険者どもと同じ身分になるなんて、想像するだけで身の毛がよだつ。
「そうですか……妙案だと思ったんですが……」
レニエルは残念そうに、大きく肩を落とす。
おい、そんなにガッカリするなよ、なんだか、罪悪感が湧くだろ。
……冒険者か。
確かに、俺とレニエルの能力を活かして働くには、絶好の仕事かもしれない。
俺は、
その中から、すでに今日の分の宿代を払ってしまったので、残りは雀の涙だ。
はぁ。
あれだけ嫌な思いをして働いて、これっぽっちか。
どうせ嫌な思いをするなら、冒険者の方が、よっぽど実入りが良いのは間違いない。レニエルの意向を、酌んでやることもできるしな。
俺は、重く深い溜息を吐いて、言った。
「分かったよ。冒険者は嫌いだが、酒場で給仕やるよりはなんぼかマシだ。明日、冒険者ギルドに行ってみようか」
レニエルの顔が、パァッと明るくなった。
やれやれ。
分かりやすい奴だ。
まあ、こいつを笑顔にしてやれただけでも、酒場の給仕より、冒険者の方が上等だと思っておくことにするか。
・
・
・
「ナナリーさんと、レニエルさんですね。はい、登録完了しました。これで、いつでも依頼を受けることができますよ」
冒険者ギルドにやって来た俺たちは、あまりにも簡単に冒険者登録手続きが済んだことで、拍子抜けした。
年齢や経歴どころか、苗字すらも(俺に苗字はないけど)聞かれなかったのだ。
レニエルが困惑した様子で、受付の女性に尋ねる。
「あの、冒険者になるための審査とか、しなくていいんですか?」
「あははっ、いりませんよ、そんなの。というより、毎日たくさんの人が登録に来て、それと同じくらいの人数が無残に死んでいきますから、いちいちやってられないんです。あははは!」
笑って言うようなことか。
なんて殺伐とした業界だ。
まあ、俺たちは危険な仕事など受ける気はない。
報酬が安くても、平和な依頼をのんびり片付けていけばいいだろう。
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