第14話 これからのこと
「はああぁぁっ!」
レニエルが、勇ましい掛け声と共にゾンビへ斬りかかった。
思ったよりも俊敏な動きに、『へえ』と、感心する。
上段に構えられた剣が、鋭く打ち下ろされ、ゾンビの脳天を直撃した。
それで、あっけなく勝負はついた。
ゾンビは、「あ゛ぉぁ~……」という、なんとも気の抜ける断末魔を上げ、膝から地面に崩れ落ちる。土に還り、安らかに眠るといい。
「お見事。なんだ、本当にやるじゃないか。これなら道中、安心して守ってもらえそうだ」
皮肉無しに、そう言った。
たかだか12歳の子供が、一ヶ月かそこらの訓練で、これだけ剣を使えるようになったのなら、なかなかの才能である。
レニエルは、一太刀振るのに半日分のカロリーを使ったかのように荒い息を吐くと、剣を拭って鞘に納めた。
「はぁ、はぁ、任せてください。僕が、ナナリーさんの
心なしか、少女のような美貌に、初めてモンスターを仕留めた自信と誇りが浮かんでいるように見える。小さな勝利でも、人間は成長するものらしい。
「うーん、凛々しいセリフだ。俺が女ならグッとくるところだね」
「? ナナリーさんは、女性でしょう?」
「そういえばそうでした」
俺自身は男のつもりだが、体は完全に女だし、そもそも男だのなんだの言うのも、前世での話だ。こんなことをレニエルに説明しても話がこんがらがるだけなので、俺は話題を変えることにした。
「それにしても、それ、良い剣だな。ちょっと見せてくれよ」
「わかりました、どうぞ」
鞘ごと手渡され、俺は少し剣を引き抜いてみる。
神々しいほどに煌めく刃は、鏡のように俺の顔を映した。
「さすが、聖騎士様の剣だ。そこらの安物とはわけが違うな」
「ええ、軽くて使いやすいし、とても良い物だと思います。……正直に言って、ゾンビを簡単に倒せたのは、僕の剣術の腕は関係なくて、全てその剣のおかげかもしれません」
俺は、刃を鞘にしまい、剣をレニエルに返しながら言う。
「謙遜するなよ。いくら道具が良くても、使い手がヘボなら、あんなふうに剣を振ったりできないさ。一流の聖騎士――とまではいかなくても、そこそこはやれると思っていいんじゃないか?」
「ふふ、お世辞でも嬉しいですよ。では、そう思っておくことにしましょう」
さて、いつまでもここで話し込んでいるわけにもいかない。
一応、周囲を見渡して、他に魔物がいないことを確認すると、俺たちは再び街道を歩き出した。
「それで、これからどうする? 治安のよさそうなところで、のんびり暮らすかい?」
「ナナリーさんが、そうしたいなら、それでいいと思います」
「いや、まあ、俺はそれでいいんだけど、お前の意志は? 何か、やりたいこととか、あるだろ?」
「いえ、特にありません、というより、思いつきません。そもそも、僕は今日で死ぬつもりだったのですから」
「ああ、そういやそうだったな……」
レニエルは、邪心など一切ない、澄み切った瞳で俺を見つめる。
「……本来なら、僕はあのグレートデーモンたちに殺され、今頃ここにはいません。この命は、ナナリーさんに与えられたものと言ってもいい。だから僕は、残った人生をあなたのために尽くしたいと思っています」
「残った人生って、お前の人生始まったばかりだろ……。相変わらず年寄り臭い言葉を使う奴だ」
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