第15話 旅の道連れ
参ったな。
俺としては、最初に言った通り、治安のいいところ(人間も魔物も寄り付かないような、森や山の奥)でのんびり暮らせればそれでいいのだが、レニエルにも、そんな世捨て人みたいな暮らしをさせるのは、少々気が引ける。
若く美しい、才気あふれる12歳の少年だ。その気になれば、これから何にだってなれるし、いつか良い相手を見つけて恋に落ちることもあるだろう。
それが、元魔物の俺と一蓮托生で隠者暮らしをするのは、あんまりといえばあんまりである。
俺は、少し考えてから、口を開く。
「なあ、正直言うと、俺はシルバーメタ……じゃなくて、前の仕事みたいにヤバイ環境じゃなきゃ、別にどんな暮らしでもいいんだよ。特別やりたいことがあるっていうわけでもない。だから、なるべく、お前の思う通りにしてやりたいんだ。……俺にとっても、お前は命の恩人だからな」
「ナナリーさん……」
それは、突然だった。
本当に、突然、レニエルが俺に抱き着いて来たのだ。
いきなり相撲でも取りたくなったのかと
「おい、俺、何かまずいこと、言ったか?」
レニエルは、鼻をすすりながら答えた。
「いえ、嬉しいんです。こんなふうに、僕の身を案じて、僕のやりたいことを考えてくれる人は、今までいませんでしたから。……僕は、母の名前も知りませんし、父も兄も、僕を疎んじます。修道院の先生方は立派な人たちでしたが、やはり、僕が王の庶子ということで、一線を引いた付き合いしかしてくれませんでした」
俺は、黙ってレニエルの後頭部を撫でてやった。
かわいそうなやつだ。
ずっと、孤独だったのだろう。
しばらくそのままでいると、レニエルは落ち着いたのか、急に自分の行動を恥じたかのように、ガバッと身を離す。
「す、すいません。とんだ失礼を」
「まったくだ。いきなり胸に顔を突っ込んでくるからびっくりしたぞ。お前じゃなきゃセクハラで訴えてやるところだ」
「セクッ!? ぼ、僕はそんなつもりじゃ!」
「わかってるって、冗談だよ」
「そ、そういうのは冗談とはいいません! 冗談とは、皆で楽しく笑いあえることをいうのです!」
「俺は楽しいよ?」
「僕は楽しくありません!」
そんなやり取りをしながら、俺たちは街道を進んでいった。
これからどうするかは、まあ、おいおい考えればいいだろう。
それにしても、旅の道連れがいるというのは、思ったより良いものだ。
今朝、単身で魔王城を出てきたときは、別に何とも感じなかった。
しかし今、このだだっ広い草原を、話し相手もなく、一人ぼっちで歩いていると想像すると、実に寒々しい気持ちになる。
俺ってやつは、意外と寂しがり屋なのだろうか。
そんな俺が、こうして旅の初日から、割と馬の合う『相棒』と出会ったのは、きっと幸運なことなのだろう。
あのクソったれのグレートデーモンにやられて、死にかけなければもっと良かったけどね。
……まあ、これも、運命の導きってやつなのかね。
願わくば、良い運命が、旅の行く先にありますように。
それから、俺とレニエルは、時折襲い来る魔物たちを撃退しながら歩き続け、傾いた夕日が遠くに見える山々に沈むころ、小さな宿場町に到着した。
大きいが簡素な宿と、酒場が一つ、商店が二つ、そして民家が四軒。
たった、それだけの町。
いかにも、旅の中継地点といった感じだ。
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