悠久の果てに
……だが、しかし。どこかで信じていたのだろう。
人というものを。
その結果……彼は見誤った。
旅立った神々が今の彼を見れば、口を揃えてそう言う他ないだろう。
……長く伸ばした白の癖毛は月より美しく輝き、双眼の青はこの世の何よりも深く。その表情には神格宿る穏やかな風格を宿した、不滅を思わせるあの姿を知る者が、今の彼の姿を見れば、いったい何を思うか……。
僅かずつ人々に忘れられてゆく、彼のおわす社。分祠(分社)の数こそ多くはなかったものの、毎年盛大な祭りすら催されていた神の社が――縁という絶対を司る
葉弥栄の腰下ろすところ。今やそこは草藪に隠された、誰も訪れぬ地だと言えば、誰が信じたか?
人の踏み入らぬ闇同然のその場所に未だ在る彼の有り様を、いったい誰が……。
葉弥栄ノ×××××神。
彼の成り形はもはや、四肢あるものですらなかった。
無残と言う他ない。
腕両足が捥がれたように欠けたその姿。かつて月より淡く輝いていた、くすみ切った髪。双眼の濁り。汚らしいその……。
そこにあるのは紛れもなく、神の慣れ果てである。
(………………私は……)
(間違えたのか…………?)
人の無い闇の中で、度々そういった思いを馳せた。
だが、他の信仰に似たあれこれに魅かれ、離れてゆく人々のことを思うと、――彼は邪気満ちて荒ぶることもできず、故に鎮められることもないままに、未だそこに在るのだった。
……あろうことか、葉弥栄は未だ人を愛していたのだ。
――捥がれたように欠けた腕両足からは根のようなものが生え、それが残骸となった彼の肉体を朽ちた社に縛り付けている。これではどこへも飛べない。
そうなるまで彼は信じていたのだ。
……だが。
(…………いったい何を……?)
今となってはそれすらも分からない。
自身の消失を悟り、彼はもう目を瞑り続けていた。
何に目を向けることもせず……自身を覆う常しえの闇の先に何があるかなど、いつからか考えることもやめて。
人というものを、ついに忘れようとしながら。
根源の分からぬ悲しみを絶えず感じるまま、彼はただそこに在り続けた。
そして彼は消えるはずだった。
――常しえの闇が切り裂かれ、再びそこに光が差そうなどと、いったい誰が予知できたか?
他の神々にも、彼にさえも、それは予期できない縁だったに違いない。
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