名 ~3~
木洩日が全てを思い返したそのとき、薄野に大きな風が流れた。
風が景色の全てを拭い去る――。
焔ノ狐神の微笑みが、最後に瞳に映った。
「――思い出した」
呟いたそのときには、木洩日は暗がりの森、神獣が猛る泉の地にあった。
木洩日は四つ這いになって震えていた。けれど揺れることない光を瞳に宿し、息もなく倒れ伏すコマをしっかりと見つめた。
――致命的な音が辺りに響いた。肉が破裂するかのような破壊音。
頭の半分を削ぎ取られた【半月獣】の一体が、地に倒れ伏した。
打ち勝った【半月獣】も無傷ではなかったが、その闘志は萎えることなく。
銀色の眼をコマのほうへと向け、体の向きを変えた――。
「あなたの名は……」
【半月獣】の、圧倒の神聖が向けられるなか。
木洩日はただそのことだけを思い、彼が願ったそれを伝えようとしていた。
「あなたの名は――」
這い、彼に近寄って。色のない瞳と視線を合わせ、両手で顔を包んで。
それを口にした。
「
□
あるところに神住まう社があった。
その地は時の流れと共に人々から忘れ去られた。
最早消え失せる運命にあった彼の者の元に、自身の姓、それと同じ音を持つ神社へ参った少女があった。少女は献身的にその神社に尽くした。
少女は打ち捨てられた狛犬によく話しかけていた。
唯一差し伸べられた祈り。やがて彼の者の神格は、その狛犬の石像に宿るようになった――。
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