陰謀 ~1~
微睡みの揺蕩いに揺れるような夢を見た。
雑草が点々と生える地に蹲ってベソをかいている。
目の前には何かがある。ぼやけて見えない。
泣きながら、訥々となにかを漏らしている。その声は意識に届かない。
涙を通して見る景色のように滲む、曖昧模糊にしか映らなかった目の前の何か、それが徐々にはっきりとした輪郭を持ち始める。水面が静まり、水底の光景が覗けるみたいに。
それは、石の――――。
コマに優しく頬をペチペチとされ木洩日は目覚めた。
瞼が、重しが乗っているかのように重い。
滲んだ視界が、やがて僅かの枝葉越しに見える夜空を映し出した。何も考えられぬ鈍い意識でぼうっとそれを見つめながら、何か温かなものに抱かれているような感覚に身を委ねる。やがてその温かみはコマの膝から伝わる温度であることに気付き、しばしそれに感じ入っていたが、意識がはっきりとするまで目が冴えると名残惜しそうに身を起こした。
近くで青火が焚かれている。地に体を付けて眠っていたというのに体は冷えてはいなかった。寝具に横たわり眠ったかのような充実がある。
――それでも、心の活力は消耗の感覚をありありと残していた。胸に刺さるような精神摩耗の痛みは拭えない……。
「目覚めたね。もう僅かで半刻だ。……気分は? 大丈夫かい?」
「……うん、大丈夫。行けるよ」
コマの問い掛けに、木洩日は掠れるような小声を返した。
「頑張れる」
「……そうか。では行こう、もうじき半刻が過ぎる」
荷を背負い、燃ゆる青火を絶やし、二人は再び前を向く。
「コマ、あれから他の獣たちは?」
「……一体たりともここへは現れなかった。獣が全て消え失せてしまったかのように静かだった……」
「そっか……」
(ここに残って、朝を待つことができれば……)
樹木の囲いへ近づきそこを発とうというそのときまで、木洩日は胸中のそんな思いを捨てきれなかった。
しかしやがて、疲労滲む暗い表情を浮かべながらも名残惜しさと決別し、幻の如き美しさ持つ泉に背を向けその場を後にした。
コマの思慮と過酷の選択は英断であった。
二人が発ったその十数分後、恐ろしいそれが泉を求めそこに訪れたのだから。
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