異郷 ~1~

「よぉく眠れたかい?」


 見慣れぬ天井が、まず視界に滲むように現れた。ぼんやりとした意識の中で、かけられた言葉だけが現実の温度を持っていた。

 天井を見つめるうち、ゆっくりと意識が目覚め、記憶が呼び起こされた。木洩日は体の具合を確かめるようにそろりと身を起こすと、持ち上げた自身の両手をじっと見つめた。


「…………そっか、私……」


 辺りを見回すと、少し離れた場所に長の一眼模様があった。


「おはよう。少し元気になったようでなによりだ」

「おはようございます。――あの、私……」

「今はまだなにも分かるまい。ここの様子をぐるりと見て回るといい。――『ふぁじゃ』」


 長が呼びかけると、部屋の奥から大柄の男が現れた。

 男は一礼の姿勢のままに長と向き合った。


「『ふぁじゃ』、この子に村の様子を見せておやり。頼んだよ」

「りーしぇか」

「うん。――木洩日にはカナイの言葉で話してあげなさい」

「分かりました」


『ふぁじゃ』はのっしのっしと木洩日の元へ歩み寄ると、野太い声で言った。


「立て。村を案内する」

「あ、はい――」

「『ふぁじゃ』は少し荒い言葉遣いをするが、どうか気にせんであげてください」

「はい。――ありがとう、いってきます」

「うん」


 頷く長に頭を下げると、木洩日はのっしのしと先に行ってしまった『ふぁじゃ』の後を小走りで追い駆けた。


 

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