第41話・極楽号内部【衛星国家サンドリヨン】ラスト
ディアからの報告を、骨伝導イヤフォンを使って聞いたレオノーラは、納得してうなづく。
「やっぱり、似ていると思った……夜左衛門さんと、直接会話を繋いで」
ディアから、万能ガンアーマーに送信されて。
遮光器土偶型異星人──織羅家財閥の執事『アラバキ・夜左衛門』の三次元立体映像が現れた。
夜左衛門が言った。
《なにか、わたしにご用ですか? レオノーラさま》
夜左衛門の姿を見た炎人たちが、一斉にひざまずく。
「おらたちの、荒神さまだ!」
「荒神さまが降臨してくださっただ!」
「荒神さま、お言葉を」
少し戸惑う、夜左衛門。
《なんですか? これは?》
レオノーラが、一通りの事情を説明してから、夜左衛門に質問する。
「もしかして、夜左衛門さん……極楽号中心動力エリアの、総責任者になっていなかった」
《…………執事と兼用して、やっていましたね、中心部には一・二回訪れただけですが》
「それよ! ずっと待っていた彼らを導いてあげて……極楽号に侵入した菌糸の根を燃やすのをやめるように」
《わかりました……君たち、レオノーラさまにご迷惑をかけたら……メっ!》
夜左衛門の言葉に感涙する炎人たち。
「おぉ、荒神さまのメっ! が聞けただ」
「わかっただ、根を燃やすのをやめるだ」
炎人の件が落着すると、レオノーラがゾアと、菌糸の根の意識が憑依した穂奈子に言った。
「次は、あなたたちの問題解決ね」
レオノーラたち一行は、菌糸の根が付着して球根のような塊になった、動力部の所にやってきた。
意識が憑依したままの、穂奈子はずっとゾアの手をイカ触腕で握り締めている。
菌糸の球根の前で、向き合うゾアと穂奈子。
穂奈子を見つめながらゾアが言った。
「やっと会えたね、思い出した……自分が何者なのかを」
顔を赤らめて、うなづく穂奈子。
「ずっと、ゾアを探していた……寂しかった」
「もう、離れない……これからは一緒だよ」
憑依したままの穂奈子の体を、優しくハグするゾア。
震えながら、ゾアに身を寄せる穂奈子。
ゾアが穂奈子の口を覆っている、包帯型のマスクをずらして穂奈子の唇を露出させる。
両目を見開き、歯をガチガチと噛み合わせる穂奈子の表情が、菌糸根の柔らかな表情に変わる。
「ゾア……きて」
明らかに菌糸の根の意識は、穂奈子の潜在意識とは真逆に、ゾアとのキスを求めていた。
唇を重ねるゾアと穂奈子。バタバタと体を痙攣させる穂奈子の目が白目に変わる。
「ふぐぐぐぐぅぅ」
唇が離れ、グッタリした穂奈子の口からイカの魂が半分出かかっている。
憑依が解けた穂奈子を介抱する、オプト・ドラコニス。
すべてを悟ったゾアは、レオノーラに一礼をすると本来の菌糸族の姿にもどり──球根根に近づき表面に触れる。
「さあ、融合しよう」
ゾアの体が溶けるように菌糸球根に吸い込まれ、融合して消えた。
そして、表面が六角形が並んだウロコ状に変化した菌糸の球根根は、静かに極楽号から離脱して……宇宙空間へと飛び去っていった。
極楽号船橋──菌糸根が極楽号から抜けた数日後に、極楽号クルーたちに説明するディアの姿があった。
「極楽号内部に侵入増殖した、ゾア人の原種菌糸はメスの菌糸でした……菌糸球根が抜けた直後の極楽号の穴は、極楽号の自己修復力のお陰で被害は最小限に抑えるコトができした」
仁がディアに質問する。
「いったい、今回の騒動はなんだったんだ? 菌糸にメスとか、オスとかあるのか?」
「それは、順を追って説明します」
船橋巨大パネルに、映像が映し出される。
「ゾア人の原種となる菌糸は、特異な繁殖をします──」
ディアの説明だと、今回の騒動の発端となった菌糸生物は──『個体別のズレた周期でオスの菌糸を宇宙に放出する個体と、メスの菌糸を放出する個体がいて──その数は一回の放出で数十億個放出するらしい』
「そんなに放出したら、銀牙系が菌糸だらけにならねぇか?」
「なりませんよ、生存できる菌糸は数パーセント……オスの菌糸とメスの菌糸が、宇宙で出会う確率になるとさらに、低くくなります……そしてオスの菌糸にはゾア人の原種らしい特徴があります。それが種族擬態……」
「種族擬態?」
「同種の容姿をしていた方が生存確率は高まりますからね……ゾア少年がヒューマンタイプの姿でゾア村にいたのは、この極楽号内で拾われたからです」
ディアの説明は続く。
「極楽号の一番上に位置するのが、ヒューマンタイプ種族のレオノーラさま──だから、ヒューマンタイプに擬態した方が生存率が上がります……菌糸の繁殖戦略ですね」
「なるほどな、わざわざ各層エリアを巡ってゾアってガキを、中心部までつれていった理由は? 連れていくだけなら、もっと早く到着する移動手段もあっだろう」
仁の質問にレオノーラが答える。
「それは、ゾアにはいろいろな経験を積んで、強くなってもらいたかったから……姫を守る王子さまや騎士のように」
航行総責任者のカプト・ドラコニスがディアに訊ねる。
「結局、あの菌糸はなんだったんだ?」
「ぶっちゃけ、簡単に解答すると……精子と卵子、極楽号内で受精行為が行われたんです」
ディアの言葉を聞いて赤面した穂奈子が、船橋から飛び出して走り去っていった。
第九章・極楽号内部【衛星国家サンドリヨン】~了~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます